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JANOME 5話

目を覚ますとウネメは部屋にいた。全身に倦怠感が襲ってくる。部屋に誰かのいる気配がした。「まさかあの子を連れて行くなんて。」マリだった。「ちょっと時期早々じゃない?」どうやらあのあとケセラがウネメを車で連れて帰ったらしい。「まったく、無茶して。キトリの始末もわかるけど今は大事なときなんだからね!」マリは腕組みをしながら呆れた。ウネメは半身だけ起き上がった。「赤龍会のやつは1人始末したわ。だけど」服を上げてお腹を見ると、鱗が更に広がっていた。「ビョウブっていう厄介なやつがまだ残ってる。」窓の前に置かれたコップを見た。夢幻草がある限り、常に追われる身となる。「だから言ったじゃない!変なもの持ってきたあの子のせいでしょ!今からでも追い出すべきよ!」マリはケセラが全ての原因だと思っている。ウネメは夢幻草を見つめながら話した。「マリ、ケセラの記憶がないのは単なる偶然だと思う?私たちの目の前に現れたときから、私はなんだかあの子が妹について知ってるような気がしたの。それに、この葉っぱが役に立つ時がくるかもしれない。」「そんなまさか!妹って…なんの確証もないじゃない」マリは納得いかない様子だ。「私、勘だけはよく当たるでしょ」ウネメは起き上がるとシャワーを浴びにいく。浴室で熱いシャワーを浴びながら広がり続ける鱗を見た。このことは誰にも話せなかった。

大会初日。刻は夜21時。
ケガレチの東に位置する場所、南京城。見事な朱赤一色のこの城内は怪しくも綺麗な提灯で彩られていた。今日からこの場所で三日間、八咫烏の役職を決める大仕事が行われる。夜も深まる頃、全国から集まってきた八咫烏たちはシードごとに分かれ、奇襲戦となる。そう、この闘いに始まりの合図などない。みな、自分と闘う相手を事前に把握しているため、どちらからともなく攻撃が仕掛けられる。この闘いにルールはなく、唯一あるとすれば殺さず生かすということのみだった。

21時を少し過ぎたころ、ウネメたちは大きな城門をくぐると屋台や店が立ち並ぶ広場にいた。燗蜜はさっそく居酒屋を見つけてお酒を飲んでいた。「ウネメ、今回はちゃんと闘うわよね?」暁が声をかける。「まぁね。」適当な返事だけ返す。チラリと広場の時計に目をやると頃合いの時間だ。蛇の目の他にも、たくさんの八咫烏たちが集っていた。そこへ一人の男が大きな声をあげた。「ああー!蛇女!」つかつかとこちらへ向かって歩いてくる男は髪を高くくくりあげた三つ編み姿で、はっぴを羽織りがに股で向かってくる。「げ!八坂の盆!」マリが片眉を上げた。「久しぶりだな!みな息災か?」盆と呼ばれた男は愛想のいい振る舞いでニコニコとしている。「あら〜ちょっと盆じゃない!相変わらずいい男ね!」麦が声をかけた。「はは、あんたは相変わらずでけーな!」この男は八咫烏組織のひとつである〝八坂〃の鳳だ。「珍しいこともあるもんね、まさか大会に参加する気?」暁が腕組みをしながら話すと「いやまさか、俺は別の仕事があって来たんだ。今回はシードで当たってるみたいだし、そっちの鳳に挨拶でもしようかと。高翠さんはまだ出張か?」「ええそうよ。それとうちの鳳は全員出張だから今日はいないわよ。」「へー流石だな。試合くらいじゃ来ねーか。まいいや、また近々顔出すわ。」ニコニコしながらそう言うと、チラリと小梅を見た。「あれ?そこの眼鏡の子闘うの?」愛想よく小梅に話しかけた。「はい!今回ばかりは八坂さん相手でも引けませんので、どうぞよろしくお願いします!」小梅は緊張しつつも存在感を出しながら答えた。「はは、そりゃうちも手抜けないなー。たしかあいつが相手だったな。まぁ、気負わず頑張んな。」「ちょっとあんた、敵相手になんてこと言ってんのよ。それにこんなとこで団らんしてないでどっか行ってよね!いつもの大男はどうしたのよ?!」しっし、と手振りをしながらマリが嫌そうな顔をした。「弁のこと?あいつはどっかで一杯ひっかけてんじゃない。うちはみんな自由だからなかなか始まらなくて困ったよ。んじゃ、また後で。」がはがはと笑いながら去っていく。「あの男あんな身なりで鳳だなんて、いまだに信じられないわ。」マリが不思議そうに言った。「あんなニコニコしてたけど、大した気よね。」ウネメは去っていく背中を見て話す。「花札!小梅の指導は完璧にしたわね?!」暁が負けてられないというように唐突に話し始めた。「はい、もちろん。小梅さんは筋がいいのできっと勝ちますよ。」花札は余裕の表情で話した。「私たちはこれから第二の間へ向かいます。それじゃ、小梅さん行きましょうか。」花札と小梅が向かう。「ウネメ、あんたももちろん行くわね?」マリが念を押した。ひらひらと手を振りながらウネメはだるそうに向かった。「はぁ、嫌な予感しかしないわ。」マリはため息をついた。ウネメは前回の闘いでは違反行為とみなされ試合が破棄になっていた。今回も破棄となれば、花形の役職が危うくなる。「一年で一番面倒な日ね。」西門を出たウネメはそう呟きながら歩いた。
怪しく光る提灯の光が遠のき、辺りが暗闇に包まれるなか、先程から感じる気をよそに、気持ちのいい風を受けながら歩いていると目の前に一人の男が姿を現した。「もう来るの?気が早い。」面倒くさそうにウネメは男を見た。男は丁寧にお辞儀をした。「ご存じでしたか、蛇の目の花形ウネメさん。今日は僕が相手のようです。」八坂のサギ。見た目こそ爽やかだがかなりの実力者だと評判の男だ。(面倒な相手だ。)

一方、第二の間へ着いた花札と小梅。「小梅さん、肩の力を抜いて。あれだけ練習したんだから、あとは実践のみです。どうか無事で。」花札はそう言うと別の場所へ向かった。
何かを決意したように顔を上げると小梅は真っ直ぐに進む。(私ならできる!)対戦相手の男は仁王立ちのまま眉ひとつ動かさずに広間にいた。「なんだ、お前か。蛇の目の料理屋じゃねーか。」男は顔中ピアスだらけで威圧的に小梅を見下していた。「今日は負けられません!」小梅は構えた。「はは、そう力入れるなって。お前相手じゃ拍子抜けだ。せいぜい死なないようにしろよ」男は薄ら笑いを浮かべると、突然突進してくる。小梅は両手でガードをしたが、男の異常な力を前に吹っ飛ぶ。「はは、弱っちいな。」ボキボキと指を鳴らしながら余裕の表情を浮かべた。小梅は立ち上がると瞬時に攻撃を仕掛ける。応戦する男はニヤニヤと小梅の攻撃を交わしていた。そして一瞬の隙をつかれた小梅は腹に一打を受け、うずくまりながらも立ちあがろうとするが足に力が入らない。ようやく起きあがると、今度は頭に蹴りが入り、完全に倒れた小梅は簡単に首を掴まれてしまった。「お前に付き人はまだまだ早すぎるな?」男がそう言うと、小梅は男を両足で挟み込みなぎ倒した。「こいつ!」そうして絞め技に入った小梅は精一杯の力を込めた。そして筋肉の拡張を始めると、みるみるうちに締め付けられた男は血管が浮き始めた。(絶対に負けるわけにはいかない!)男は苦しそうに血を吐くと、小梅の腕をへし折る勢いで掴んだ。バキバキと腕が折れる音がする。「ああああ!」小梅が痛みで腕の力を緩めた隙に髪を掴まれ吹き飛ばされていた。完全に頭に血が上っていた男は小梅の首を絞め始めた。「料理番のくせに、殺してやる。」一層に力を込める。
突然、背後に気配がして振り向くと頭に強烈な一撃を受けた男が吹き飛んだ。「今のは反則。」小梅がなんとか目を開けた先にいたのはウズメだった。サラサラの髪の毛をなびかせ、優雅に立つウズメは腕組みをしたまま男を見つめた。「ウズメ様…」小梅は涙が溢れた。「そこのお前ぇ!立て」ウズメは気絶している男を指さすと、小梅を見た。「まだやれるな?知恵を使いなよ、馬鹿力で対抗しても無駄だ。」そうして小梅を見つめた。「はい!まだ闘えます!」(ウズメ様がこの場まで来てくれた。無駄にしたくない!)男はのろのろと起き上がると完全にキレた様子で小梅に攻撃をしかけた。小梅は立ち上がると応戦し、折れた腕でなんとか持ち堪えているが、腕がほとんど使い物にならないせいで相手が優位だ。最後の力を振り絞り、全身の筋肉の拡張を始める。「私の最後の力です…!」ビリビリと空気が凍てついたように音を立てる。小梅は最後の力を振り絞ると、男も筋肉を拡張させ二人はぶつかり合った。ウズメはその様子を眉ひとつ動かさずに見ていた。「勝負あったな。」
立ちこめる煙の中ふらふらと立っていたのは小梅だった。見事に勝利をおさめた小梅。
八咫烏たちの闘いはまだまだ続く。

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