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黄金色のシロップに眠るもの

「今年もまた梅の実を取りにおいで」と親戚から電話をいただいた。振り返ると昨年の梅取りはちょうど1年前、6月に入る頃だった。同じように長袖で軍手を付け、脚立にのぼり、ゴツゴツとした梅の木にしがみついて実をもぐ。前週までは「もう少し先かなあ」と言っていたけれど、あっという間に膨らんで、すでに黄色くなり始めたものもある。遠くから見てもらいながら「もっと右、もっと左」と、取り残さないようにもいでいく。「おすそ分けするようなら全部持っていっていいよ」と、梅の木1本分、まるまるいただいた。他の人にも喜んでもらえるならというお気持ちもあるのかもしれない。家に帰って量ると、おおよそ昨年の倍くらいあった。

初めて梅シロップを作ったのも、人から梅の実をいただいたときだった。梅農家を実家に持つ友人から届いた梅の実をすべてシロップに変え、あちこちへ配った。部屋中に甘い香りが広がることや、出来上がったシロップが黄金色になること、自分が作ったものを「おいしい」と喜んでもらえる嬉しさを知り、シロップをきっかけに出会う人もいた。


それから10年。出会っては別れ、周りの顔ぶれは変わるところもあれば変わらないところもある。交わした言葉もたくさん忘れてしまったけれど、黄金色のシロップを通して生まれた感触や感情は今も残っている。相変わらずこの時期になると人の喜ぶ顔見たさに、たっぷり漬けている。


出来上がりは梅雨も深い頃。今年は新しくきび砂糖でも漬けてみることにしたけれど、どんな色に仕上がるだろうか。これもまた、小さな瓶に詰めて季節の便りみたくお届けする。


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