夏風
三回忌だ。たまには帰ってこい。
兄貴からメールがきたのは随分久しぶりだった。
親父の葬式に出て以来実家には帰っていなかった。
半端者の俺には父親の死を皆と弔うための居場所すらなかった。もうここには俺の居場所はない。
因果応報、当然だと思った。
…とはいえ親父の墓参りすら行かねぇってのは違うか。
そう思い直し、車で実家の方にむかった。
正直言って地元は居心地が悪い。
ここにいたころ、俺に怖いものはなかった。
夢とか希望とかそんなキラキラしたものは持ち合わせてなかったけど、俺の存在意義だけはこの手にしっかりとあった。
あの時俺があの選択をしなければ、この土地から見放されることはなかったのだろうか。
結婚して子供をもうけて…そんな未来があったのだろうか。
母親をあんなに泣かせることも、親父がこんなに早く死ぬこともなかったのではないか。
選べなかった選択肢と、その先にあるであろうわかるはずのない未来を想像すると今立っているこの場所すら迷子になるような感覚を覚えた。
商店街の外れの小さな花屋で花を買い、
コンビニに寄って缶ビールを2本とタバコを買い、父の眠る墓に向かった。
枯れた花を捨て、散らばった落ち葉を拾いあつめた。
父の背中を最後に洗ったのはいつだっただろうか。そんな事を考えながら墓石を拭いた。
「やべっ、線香わすれた…!」
こういう所だよな…我ながら情け無い。
線香の代わりにタバコに火をつけた。
「おやじ、これで勘弁な。」
缶ビールをあけ、2人で乾杯した。
ひぐらしの鳴く声と、夏の風が肩を優しく撫でていった。
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