梅雨の狭間で 第2章
第2章
ぼくの後ろから聞こえてきた小さな足音の主に顔を向けた。
「ただいまぁー、ねえ、おとなしくしてた? ママに見つからなかった?」
「やあ、おかえり! 大丈夫だよ。みっちゃんのママがこの部屋に入ってきた時はドキッとしたけれど、ちゃんと人形のふりができたよ。それにしても今日はいい天気だね」
「うん、だから昨日買ってもらった真っ赤な長ぐつをはいて行かれなかったの。また雨がふればいいのにね! そうすれば新しい長ぐつをはけるのにな」
「雨ふ〜れ♪ 雨ふ〜れ♪」
部屋の中をぐるぐる走りながら歌っているみっちゃんを見つめながら、ぼくは言った。
「ねえ、ぼくは今日、おうちへ帰るよ」
「もう帰るの? どうして?」
みっちゃんは寂しそうに聞いた。
「おうちへ帰るチャンスが今日しかないみたいなんだ。今日帰れなかったらふるさとの星へ帰れる日は二度と来なくなるだろう」
実は、ぼくは宇宙のはるか彼方に住んでいる。ふるさとの星にいればエーテル体で暮らせるが、その星にも多少の水分はある。水分が身体にたまるたびに身体は人間のように目に見えてくる。
必要に応じて、まるで雑巾のように身体をしぼる。長い時間水につかっていたらダメなのだ。身体が見えるだけではなくだんだん風船みたいにまるくなる。
地球に入ったとたんにエーテル体から人間やほかの生物のように目に見える存在になってしまったのだ。
だが、見えるだけならいいが空気の湿ったところにいるのは危険この上ない。一週間が限界だ。それ以上に水分を摂り続けると身体がボールのようにふくらんで最後には破裂してしまうからだ。
早くこの雨の季節から逃げなくてはならない。
チャンスは梅雨の晴れ間である今日しかないのだ。
「いやあ! ここにいなきゃいや‼︎ ダメダメ!」
ぼくらの星の住人はこの青い地球に降りてはいけない存在だったのだ。地球に降りていいのは地球観察または監視する役割のある星に限られたが、僕らにとって、水が大半を占める地球は恐怖しか感じない星だった。
また、地球以外に生物が住んでいることを確認できない地球はまだ参加資格がない宇宙会議で決められた事だった。
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