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12星座との出会い。

私が何度目かの目覚めに辟易していると、久しぶりの顔が頭上から覗き込んできていた。

黒髪ツインテール、闇より深い黒の瞳、桜色の唇にブレザーのような服装。ローファーの踵を鳴らしたノヴァ・タラッタはにこやかに笑うと「お久しぶり!」と声をかけてくる。

「さっきまでプルート・キリアのとこにいたみたいね? ふふ、あそこの匂いがする」

私の体をパタパタと叩き、埃を払いながら話を続ける。

「コロコロ行き先が変わってて申し訳ないのだけれど……ティタンがね、キリアの謁見は終わったから〜って私のところに君を飛ばしたみたい。でも最善だと思うのよ? あそこにいたらケルベロスに食い殺されちゃうから」

彼女はそう言って笑った。花が咲くような笑顔とはこのようなものだろうが、彼女の目はそれでも輝きを宿さないままだ。

「それでね、次はどこがいいか私なりに考えていたの。私たちのお城でもいいのだけれど、宇宙飛行士さんなら月より縁の深いところをね、先にするのがいいかもしれないって」

彼女の両手が改めて私を抱え直す。開けた視界に広がるのは暗い森で、足下を照らすのは彼女の周囲を旋回するあの紙飛行機だけだ。

木々は風によって騒めき、闇は深まる。星々の光は地上に届かず、天上には太陽も月もない。不安を煽るような世界ではあったが、彼女ーーノヴァ・タラッタの歌声はそれを払いのける美しさがあった。

英語で歌い上げるそれは、祖星で聴いたナンバーだ。彼女はこちらの視線に気づいたように目を下げると、微笑んで曲名を挙げる。

「フライミー、『FLY ME TO THE MOON』。貴方の星では有名な曲なんでしょう? 月って入っているとね、どうしても気になっちゃうの」

私を月に連れて行って、という曲を月の彼女が歌うのは何処か不思議な感覚があったが、馴染んだ曲は心地よく耳朶を打つ。

踊るようなステップ、弾む声、気まぐれなターンに広がるスカート。もはや前後も左右もわからなくなるほど回っているのに、彼女の足取りは迷いなく進んでいる。

三歩進めばワンフレーズが終わり、五歩進めば私を抱える腕に力が籠る。

緩急のあるそれらに身を委ねて進んでいれば、いつからか森が開けて中心が露になった。そこはいつからか昇っていた月光が降り注ぎ、湖を綺麗に輝かせている。

街灯のようなランプ、穏やかな風、靡く花々。湖のほとりに植っているのは桜だろうか、穏やかに散ったピンクが水面と地面を彩っている。

恐ろしの森を抜けた先にあるとは思えない穏やかなそれに目を瞬かせていると、奥にあった円柱型のドアが開き、中からいくつかの頭が覗いた。

ひとりは白髪に羊の角。ふたりはピンクの髪に鮮やかな赤目。ひとりは獣耳に瞳孔の長い瞳。

皆が驚きと興味を隠せない空気を醸し出す中、手を振っていたノヴァ・タラッタは「あの子たちはね」と笑う。

「貴方の故郷に馴染みのある12星座の子達よ。星降る森の住人さん! ねえ、そういえばあなたは何座なの?」

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