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アヘアヘキングダム1st Season Story 12

<Tokiyu’s Case ―― トキユの場合>
今日も雨か。

ラキアが出て行った時は、若干暗くなった。それでも、ニャムサンとユィミさんの合格によって一気に明るくなった…はずだった。こんなことになるなんて、誰も想像していなかったはず。無論、私も。今のアヘアへ王国には、笑顔がない。

退院しても、アインちゃんの様子は一向に変わらない。生気を失った瞳。弱々しい声。感情の映らない、ロボットのような表情。ネーソーも色々試してはいるが、全くと言っていい程効果がない。何とか力になりたいが……
どうしたものか。

そろそろ実習に行かねば。

<Yuimi’s Case ―― ユィミの場合>
「アインをお袋に会わせる」。ショウコさんの病状やアインちゃんの反応を考えると、正直賛成はできなかった。でも、考えに考えた末の決断だろうから、反対も出来ない。アインちゃんの記憶を取り戻す、最後の手段だと思うし…。

ネーソーの性格上、仮に反対されたところで、「じゃあやめとくわ」とは絶対にならない。なら、なぜあたしに言ってきたんだろう…って一瞬不思議だったけど、やっぱり不安なんだと思う。あたしも、「うまくいくと良いね」としか答えられなかった。

あたしがネーソーとアインちゃんの間に入って、ちゃんと仲を取り持っていれば、こんなことには…

<Nyamsan’s Case ―― ニャムサンの場合>
入居して以来、初めてかもしれない。こんなに静かで、沈んでいる雰囲気は…

私自身、いい加減結論を出さないといけない。ここにとどまるのか、養成所に入るのか、実家に戻るのか。バイト中も、食事中も、布団の中でも、ずっと考えてきた。でも、頭の中がグルグルするだけ。ため息が出るだけ。

いや、もう決めなきゃ。このまま考えていたって、納得のいく結論なんて一生出ないよ。私だって分かってるんだ。たとえ心の中に、迷いや不安があっても、決めなきゃいけないってことは。

<Fiimo’s Case ―― フィーモの場合>
もっと反対されると思ってた。殴られると思ってた。あまりにもあっさり「好きにしなさい」と言われて、拍子抜けした。でも、その後に強烈な一言が待っていた。

「お前はもううちの息子ではない。勝手に生きていけ」

涙は出なかった。返す言葉も出なかった。ただ、頭が真っ白になった。

<Neesou’s Case ―― ネーソーの場合>
お袋の病室に、アインを連れてきた。いや、連れてきてしまった。

こいつが好きだった歌、本、映画、漫画、アニメ、場所、食べ物。携帯。学校。友だち。思い出話。思いつくことは、全部試した。それでも、記憶は戻らない。というか、戻る気配すら感じない。

「この状況で、アインとお袋を会わせていいのか」…俺っちの人生の中で、こんなに悩んだことはなかった。でも、これ以上お袋に嘘を押し通すわけにはいかない。「奇跡を信じて…」なんてガラじゃねーけど、他に方法が思いつかない。

ミサキ先生も言ってたけど、今のお袋に大きなショックを与えるのは危険だ。だから、前もってお袋には大体のことを話した。その時も心配だったけど、冷静に受け止めてくれた。何より、お袋はアインに会いたがっている。

ちょっとでいいんだ。希望が欲しい。…よし、開けるぞ。

<Ain’s Case ―― アインの場合>
ダレデスカ  

ワタシ アナタノコト シリマセン 

………アイン?………ワカリマセン

…………………………

……ナカナイデ クダサイ。

<Dialog Neesou and Shouko―― ネーソーとショウコとの会話>
ネ:入るよ。
シ:どうぞ。
ネ:……ちょっとは落ち着いた?
シ:うん。泣かないようにって思ってたんだけど、ごめんね。
ネ:いや……
シ:何かね、自分が「娘に忘れられた母親なんだ」って実感したら、悲しくなってきちゃって。フフ、ホント、情けないわね(苦笑)。
ネ:……
シ:私ね、今すごく後悔してる。何で、ネーソーやアインの心の痛みに、もっと早く気付いてあげられなかったのかな…って。
ネ:……
シ:そうすれば、リョウジさんだって、あんなに頑なな態度は取らなかっただろうし、アインも寂しい思いをせずに済んだかもしれない。
ネ:そんなことないって。100パー俺っちが悪いんだよ。勝手に出て行ったんだから。
シ:ううん、それは違う。ネーソーがそうせざるを得ない状況に、私が持っていってしまったのよ。ツライ思いさせて、ごめんね。
ネ:……
シ:病室ってやることないでしょ?だから、昔のことを思い出すの。私がご飯作って、みんなで「いただきます」って言って、食べて。ネーソーやアインが学校のことや友だちのこと、話をして、リョウジさんと私が、笑顔で聞いてる。
ネ:……
シ:あの頃は、当たり前だと思ってた。でも実は、すごく幸せなことだったんだなあって、今さらながら気付いたの。
ネ:……
シ:フフッ、ホント、今さらね。こんなことだから、アインにも忘れられちゃうのね。
ネ:俺っちが何とかすっから。そんなこと言わないでくれ。
シ:うん。ごめんね。……はぁ、何だか疲れちゃった。ちょっと話し過ぎよね(苦笑)。
ネ:…今日はもう休めって。また明日来るから。くれぐれも無理すんなよ。
シ:私なら大丈夫よ。ありがとう。気をつけてね(^ω^ )
ネ:おう。んじゃ…。

<Neesou’s Case ―― ネーソーの場合 >
俺っちはなんにもできねえのか。

【STORY 13 Preview ―― 次回予告】  
救世主、登場 / ピクニック
眠っていた記憶 / わずかな光
(✧≖‿ゝ≖) coming soon 
※内容は、モデルこそいますが、あくまでフィクションです。
※筆者取材のため、soonでない可能性があります。ご了承ください。

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