放送大学「より良い思考の技法――クリティカル・シンキングへの招待』」受講ノート~第2回

実践1 社会統計データを読む

 クリティカル・シンキング2回目の授業は統計についてである。
 わたしは数字が何より苦手。1回視聴した後、ほんの少しでも数字に慣れなければなるまいと、山田真哉『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』と『食い逃げされてもバイトは雇うな』上下巻を読んだ。もちろん会計学と統計値の読み方は違うが、「数字」という共通点があるので、食わず嫌いから「とりあえず数字というものを見る(読むではない!)」という習慣をつけるつもりで取り組んだ。効果はこれから出てくると信じよう。

標本調査は偏るのが当たり前

 授業は、米大統領戦でルーズベルトが勝ったときの予想、いわゆる「ギャラップ・ショック」の話から始まった。200万人以上に電話調査をした「リテラリー・ダイジェスト」誌と、3000人を調査したギャラップが率いる「アメリカ世論研究所」の予想が真っ向から対立したが、結局ギャラップ側の予想が正しかったというものだ。
 標本調査というものが、実は「無作為」ではないということを如実に示した結果になった。まぁこれはわかる。電話調査は」、昼間に電話に出られる人からしか回答が得られないのだから、偏るに決まっている。ここまではわかった。
 サンプリングにはこのほか、たとえば年収調査などでは「(意識的にか無意識にかはともかく)若干高めに回答する」傾向があるので、やはり実態とはかけ離れてしまったりする。これも当たり前。国勢調査を見ればわかる。
 また、誘導質問的なことで答えを操作したり、質問の選択肢の立て方ひとつでも結果は変わってくるのである。

生存者バイアス

 これについては翻訳業界を見ればよい。SNSではフリーランスの翻訳者はみんな「稼げる」「AI翻訳が浸透すればするほど人間翻訳の良さがわかる(からクライアントが高い金を払って人間に翻訳させようとする)」と威勢のいいことを言っている。
 ちょっと考えればそんなはずはない。クライアントが「AI翻訳の質でよい」と考えれば、人間は不要になる。自分たちが食えるか食えないかというとき、翻訳コストなど真っ先に削るのがふつうだ。
 では、なぜ皆はこんな発言を毎日繰り返しているのか。負け惜しみでも嘘をついているわけでもない。
 SNSで語っているのは「それだけの料金がとれる人」「稼げる人」だけだからである。最低時給以下で仕事をしている人、仕事が激減した人、廃業した人は沈黙している。それどころか、すでに社会から脱落している人もいる。そうした人たちをわたしは何人も知っている。
 生存者バイアスの恐ろしさは、日々Twitterを見ているだけでひしひしと感じるのである。

相関関係は因果関係とイコールではない

 よく売れているダイエット食品がほんとうに効果があるのか。調査の結果、たしかに消費量と肥満度が比例しているという結果が得られた。比例の相関関係があることになる。 
 しかし、「相関関係は因果関係とイコールではない」ことを覚えておかねばならない。ダイエット食品を「多く食べたから痩せた」のではなく「太っている人が多く食べている」のが実態である可能性が高い。
 「毎朝コーヒーを飲む人はがんになるリスクが低い」はどうだろう。これはすぐわかる。「毎朝コーヒーを飲めるほど元気な人」ならがんにかかる確率は低いということだ。

クリティカルに統計を読むとは

 こういうことを勉強すると、やはり「統計は嘘」「聞こえてくる声は偏っている」のであるが、クリティカルに現状を読むにはどうしたらよいのか。
 データから相関関係が現れたとしても、それがイコール因果関係でないことや、データには現れない変数が裏にあるのかもしれないと疑うこと。とくに世論調査を読むときには、クリティカル・シンキングの練習と思ってかかること。まさにクリティカル・シンキングはいまを生きるのに必須のスキルであると、改めて肝に銘じた授業であった。

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