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 大きい仕事が終わった。19:00から深夜23:30までにわたり、セミナーとディスカッションの2本立てで「話す」仕事だった。
 話すのが苦手、かつ超朝型で毎日20時に寝てしまうわたしにとってはこの時間帯はきつかった。最初、話があったときに時間のことを聞かずに受けてしまったが、あとから「断ればよかった」と後悔した。ただでさえ講師業は(わたしにとっては)お金にならないというのに。
 だが、そんなことは受講者には関係ない。話を受けた以上、受講者に価格以上の価値を提供し、「受けた甲斐があった」と思ってもらうようにコンディションを整えるしかない。
 というわけでスライドの準備だけではなく、パフォーマンスも繰り返して準備してきた。
 その「話す」仕事がやっと終わった。
 ならば、打ち上げをしよう。
 どこに行こうかな。そうだ、ロイヤルホストはどうだろう。徒歩圏内にはなく、数駅間電車に乗らなければならないが、「特別感」が出るしちょうどよいかもしれない。
 というわけでロイホまで出かけた。
 席に案内されてメニューブックを渡されるが、予めウェブサイトで見ておいたため、オーダーはもう決まっていた。「英国風ギャザリング・プラッター」だ。ワンプレートに次の料理が載っている。
●パスティ(ミートパイ)
●ベイクドビーンズ
●カンバーランドチキン(スパイス風味のチキン赤ワインソースかけ)
●コロネーションチキン(エリザベス二世の女王戴冠式のために考案されたカレー風味チキン)
●ケール
●ポテト
 アルコールはというと、これも英国産ビール。ブリュードック・パンクIPAで完璧だ。注文しよう。
 さて、まずはオレンジ色のビールが運ばれてきた。ささやかな乾杯をしよう。自宅で酒を飲むのをやめてから、ビールというドリンクを口にすることもなくなっていた。ほんとうに久しぶりだ。
  ひとくち喉に流し込む。軽くてフルーティ、日本のビールに慣れていた自分には、別の飲み物のようである。否が応でも特別感が漂う。
 ビールを味わっているとプレートが来た。まずは野菜ファースト、ケールから。ケールの入った青汁は毎日飲んでいるが、「食べる」のは初めてだ。決して美味しくはないだろうと覚悟して口に入れたら、苦い!
 わたしは苦い食べ物は嫌いではない。珈琲は深煎り、野菜でいえばルッコラの苦味は好ましい。たまにあの苦味をもとめて買ってしまう。
 しかし、このケールはほんとうに苦い! 青汁の元だから当然か。そこで攻略方針を変え、ベジファーストとして食べてしまうのではなく付け合せとすることにした。
 ここでステーキにいこう。
 やわらかい! これはソースなしで、肉そのものを味わったほうがいいかもしれない。
 次はカンバーランドチキン(スパイス風味チキン赤ワインソースかけ)。フルーツの香りがするソースをかけるのは、日本の食卓にはない味なので「英国感」が盛り上がる。
 その合間にケールを少しずつつまんでいく。ああ、こうすればいいのね。舌をリセットする効果があるんだ。ベークドポテトとトマト風味のビーンズをはしごして、舌の「肉感」をひとやすみさせる。
 さて、いよいよパスティ(ミートパイ)だ。
 パイは好きだがめったに食べる機会がないわたしにとって、ミートパイはごちそうそのものだ。ナイフを入れると、バターと小麦粉でできた層がパリパリ割れていき、期待感がさらに高まる。
 中身は、オニオンが多めでジューシィなミートパイだった。ふつうの味だけど、ふつうが一番、ふつうが美味しいのである。
 そして、バターを使ってパリッとした食感の一品があると、ビールがもっと楽しくなる。
 では、いよいよ行きますか、ステンレスのハンドル付き器に入っている、黄色いチキンに。この色はターメリック、つまりカレーの色。エリザベス女王二世の戴冠式で供されたという高貴な一品だ。
 庶民が食べてよいのかと、ちょっとどきどきした。けれども、チキンが割いてあるので食べやすい。スパイシーなカレー風味だが、クリームソースで和えてあり、チキンのぱさぱさ感がなくしっとりとしている。見た目よりもずっと考え抜かれたメニューなのである。こういうのが「王家の味」なのか、いいなぁイギリス。
 さて最後のひとくちは、大好物のミートパイ、パスティで締めよう。名残惜しいが、こういうものはぱくっといくのが正解だ。
 ああ、美味しかった。ビールなんて何か月、いや何年ぶりだっただろう。ロイホでの「英国」は、久しぶりの特別感満載だった。次の「打ち上げ」のときも、またここに来ようっと。

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