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「ヴァロットン―黒と白」感想

 美術検定の勉強で出てきた名だな、という以上のことはなかったのだが、YouTubeでいくつか紹介されている動画を見てから気になっていた。
 そこで三菱一号館へと足を向けたのだが、版画になんとなく抱いていたイメージがまったく変わった。名画家の版画ということで、線がものすごく細くて、音楽でいう超絶技巧の人だと思っていたのだ。
 ところがそうではなかった。黒一色の中にギリギリまで線を省略していて、現代のイラストレーターが描いた最新スタイルの挿絵のよう。
 さらに、言葉を商売とする者としては、絵とセットになっているタイトルにとにかく考えさせられる。「このタイトルで何が表現されているんだろう」と。有名な「アンティミテ」や「これが戦争だ!」以外にも謎めいているタイトルは多い。たとえば「愛書家」は、書斎で本を探すナイトガウン姿の(おそらく)男性がランプを掲げているが顔は見えない。寝る前に読む本を探しているのだろうか。手に取った本は何なのだろう。詩だろうか、それとも寝る前に思考実験をしようという哲学の本だろうか。どういう基準で選んだのだろうか。などなどどんどん止まらなくなってしまう。
 いつも美術館に行くと3枚ポストカードを買うのだが、今日はこの愛書家」と、展覧会紹介動画を見て以来ずっと気になっていたふくろうの影絵アニメーション「レザン(の蔵書票)」の2枚にした。
 そしてTシャツを購入した! 展覧会グッズを買うのは初めてだ。まして「布モノ」は発色が作品とまったく違うことが多く、これまで手に取ったこともなかった。だが、すでに行かれた方のブログを見て黒と白のTシャツは素敵だと思った。いいのがあったら買おうと決め、ショップで「うん、これだ!」と思ったのが、山々を描いた連作の「ユングフラウ」だ。ヴァロットンの故郷、スイスのアルプス山脈の山が、三日月と星が輝く夜に浮かび上がる。直線を多く使って描かれた雲も潔いし、山の描き方はわたしの好きな北斎の影響もあるという。何よりもこれを着るたびに、ヴァロットンの「黒」がもつパワーをもらえそうだ。というわけで初の展覧会グッズ購入となった。早速、明日着てみることにしよう。

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