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【基礎編】大学院志望の学生のための監査論の本【4+1冊】

はじめに

 最近ちょこちょこ聞かれるので、(自分用のメモも兼ねて)書きたいと思います。

 大学院受験(日本)では、語学・会計学(基礎)・面接が3点セットだそう(プラスαで、論理的思考能力や社会科学の素養を問うような小論文を書かせることもあるみたい)。

 面接がある程度重視されそうなので(∵語学や会計学(基礎)は倍率の高い大学院ならそんなに差がつかないから?)、基礎知識を知っておく必要はあります。じゃないと面接の際にボロがでるかもしれません。

例えば、下記の質問に答えられないときはこの記事で紹介する本を読んでおくとよいと思います。

  • 離脱規定を採用している国がどこで、どういう経緯から採用しているか?

  • 監査研究で支配的な監査の定義を文献とともにあげて、その特徴を複数挙げて。

  • 監査証拠、監査命題、アサーションについて複数の学説をあげて、自分が適切と思うアイデアを教えて。

(しょうもないと思うかもしれないけど、教員は学生との間で専門知識のコミュニケーションで齟齬が起こることを心配しているので、それを面接で大丈夫だと思わせる必要がある)

基礎的な知識を知っておくための本(3冊+1)

①伊豫田隆俊, 松本祥尚, 林隆敏 (2022)『ベーシック監査論(九訂版)』同文舘出版.

 会計士受験生のための基本知識が書かれている本。この本の良いところは、著者が必ず改訂してくれるところです。学術的なことは少なめなので、これだけだと心もとないです。師匠の本でもあるので最初にのっけてます。

②亀岡恵理子, 福川裕徳, 永見尊, 鳥羽至英 (2021) 『財務諸表監査(改訂版)』

 鳥羽先生(早稲田)とその弟子の亀岡先生(東北大)のグループによって書かれた本(という位置づけでいいと思う)。「このテーマについては、我々はこう考える」というのが明確に出ている本だと思います。

 間違いなく良い本ですが、紙幅の関係でなんでそう考えるに至ったかぱっと見で分からないかもしれないです。そんなときは、古本になりますが、鳥羽先生の下記の本もおススメです。買っといて損はないと思います。

③デヴィッド・フリント(訳 井上善弘)(2018) 『監査の原理と原則』創成社.

 翻訳本からの紹介です。この本はイギリスの監査について学ぶことができる本です。監査の概念の多くは、イギリスから来ているので是非この本から勉強しましょう。

 監査証拠に興味がある人ならひょっとしたら、同じ井上先生の翻訳で、下記の本のほうが役立つかもしれません(ちなみにこの翻訳本は、監査研究学会の教育奨励賞を受賞したナイスな本です)。
 引用は適切で良い文献が紹介されているのが良い点なのですが、まとめ方が筆者独特というのが悪い点。特に第1章「監査理論と監査における概念フレームワークの性質」は特に学生のうちは「そんな議論があるんだな~」くらいに留めておいて、第2章以降に進むのおすすめ。注意点は、Powerという学者の名前が出てきたら「眉唾」だと思うこと。それっぽい問題意識を掲げるが、怪しい議論を展開する学者なので注意。ただ、こういう議論をする人がいることは事実なので知っておくことが大事。
 「基礎理論(auditing theory)」と書いていますが、実際には監査証拠の話が多いです。その意味では、監査証拠が財務諸表監査の「理論」の多くを占めているといって良いかもしれません。

 監査論に数多く存在する概念的(conceptual)な「理論(theory)」への向き合い方は大学院生の頃は悩むことが多いと思います(学んだからといって査読付論文は書けないし…)。学生(から研究者として就職するまで)のおススメの向き合い方としては、「自分たちが接している現実を説明するために、便利(useful)だから使ってる(し学んでいる)」くらいの考え方で良いと思います。
 特に我々は、応用社会科学の中でもさらに実践に近い分野(社会科学の中でも一番近く「実践」に接している分野の一つと言っても良い)を研究していて、概念は科学的に実証された(事実としての)理論と現実の実践をつなぐ接合部になっています。なので、「過去・現在」で正しい概念をギチギチに決めてしまうより(ただ明らかにスジが悪い概念というのはある)、「現在・将来」で「便利な概念だから」採用していると考えるほうが色々と都合がよいのです。

④千代田邦夫 (2014)『闘う公認会計士ーアメリカにおける150年の軌跡ー』

デヴィッド・フリントからイギリスの監査を知るなら、この本でアメリカの公認会計士の歴史について学びましょう。この本からは、(監査研究者なら当然に理解しているであろう)監査人の役割や責任の歴史的背景を知ることができます。

+α:林隆敏編 (20??) 『財務諸表監査の基礎概念(仮)』???.

大学院生向けの監査概念の本、出版が遅れています。

おわりに

この記事では、財務諸表監査を研究したい大学院に進学したい学生さんのために、3冊+αの本を紹介しました。

読み方として、
①一度前から読んでみる。
②各テーマごとに串刺しで読んでみて、各先生がどういう考えで執筆しているかまとめてみる。

その意味でも、+αであげた『財務諸表監査の基礎概念(仮)』は良い本になると思ってたのだが、2023年度の院生志望の学生の指導に間に合わなかった…すいません。


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