笑顔で起きて、笑顔で寝たい

 「服を着て楽しんで、気分良かったら、かわいいおねえちゃんが寄ってくるやないですか」

 これは、ちょくちょく買い物に行くセレクトショップのオーナー(関西の人)が、服を選ぶ喜びの一つとして挙げていたもの。「かわいいおねえちゃん」という言い方は、今の時代には眉をひそめられそうだけれど、見習うべきところはありそうな言葉ではないかしら。

 見た目を大事にすること。そして不機嫌ではないこと。それが魅力につながる、という話で。

 自分はときどき小ぶりなアクセサリーをすることがあるのだけれど、それを初めて買ってみたのも、その店だった。年甲斐もなくアクセサリーを着けてよいものかどうか……と照れ隠しで聞いたときに、そのオーナーは「お客さんみたいなしっかりしてそうな男性が、派手すぎないアクセサリーを着けてるのがエッチでよろしいわな」と言ってきたのだから驚く。“エッチ”ときましたか! 字面にするといやらしく聞こえるかもしれないが、いざその人が口にすると下品な感じはしないのだから恐れ入った。冒頭の言葉も含め、本人の口調で穏やかに聞こえるのは、人柄だと思う。

 それはそれとして、「機嫌よくしていたら」という言葉を、最近よく頭に浮かべている。

 自分はそんなにメンタルが強いほうではないから、いつからか、不安や苛立ちを外に出すことが、(おそらく、人より)多くなってしまった。もしかしたら、機嫌の悪さをアピールすることで、周りに気を使ってもらおうとしていたのかもしれない。そうやって人に寄りかかることは、しかし、自分の機嫌取りを他人に期待することに近い。そして、相手が応えてくれないと、勝手に失望することにつながる。歳を重ねるにつれて、それは良くないな、と考えるようになった。

 思い返せば、メンタル面で難がある、というような理由で、人に避けられたこともあったような気がする(文章にすると最低ですね)。気がする、というのは、いささか悲観的というか、被害妄想に過ぎると考える人もいるかもしれないが、付き合いやすいタイプの人間ではなかったと反省することは多いのです。

 一方、コロナ禍におけるさまざまな不自由やストレスなどは、しっかりと自分のメンタルを蝕んでいたようで、この春、それが体調に出て、しばらくダウンしてしまった。「まいったなあ」と寝込みつつ、しばらくSNSなどから距離を置いてみると、心身ともに弱っていた自分にとって、殺伐とした情報、意見、ニュースなどが多すぎるのかな、と感じ始めた。

 そうでなくても、やはり嫌な気分になることばかりじゃないですか。一つのニュースに関して、すぐ「あなたはどちらの立場を取るんだ」みたいなマウント合戦みたいになってしまって、どうも……。

 かくいう自分も、最低限の節度は保っていたつもりとはいえ、健康ではない状態で暗い話題に触れれば、やはり悲観的にもなり、相対する立場には攻撃的にもなる。そうなれば、心に余裕がない言動が目立つような気がしてくる。

 そういう精神状態で暮らしていれば、目覚めも悪いし、なかなか眠れない。こんなふうに1日が始まり、1日が終わるとして、それが楽しいはずがない。そして、そういうふうに毎日を過ごしたいかと言われれば、決してそうではない。

 ネットに何を書こうが、リアルでどう振る舞おうが、個人の自由ではあるけれども、ストレスや苛立ちが増加してしまうのであれば、それは、ほんとうに必要なことなのかしら。残念ながら、ネットでは、政治やスポーツなどで、文句を言って怒るために情報をチェックしているような人もいるのですが。

 穏やかな感情、冷静な視点を取り戻すには。自分の心をヒリヒリさせるようなものから距離を取るには、どうするべきか?

 服を着る。アクセサリーを着ける。好きな音楽を聴く。ゲームをする。気になるものを食べる。人と会話したりどこかに出かけたりする時に、気分良くいるために。

 気分良く。なんだか簡単で、お気楽なようでいて、いざそうあろうとすると、それなりにスマートな思考と、態度が求められませんか。

 ひいては、その振る舞いは、大人としてのマナーでもあり、相手に対しての気遣いでもあるような気がする。それが自然にできる人は、魅力があるというか、一緒にいて嫌な思いをすることが少ないのだろう。まあ、かわいいおねえちゃんが寄ってくるかどうかはさておき……。

 自分が楽しく生きるために、周りの人をリラックスさせるために。気分良く暮らすことが、たぶん、求められている気がする。放っておくと、機嫌が悪くなりそうな話ばかり聞こえてしまうので(ということは、そういう人からは距離を取ろうとするわけじゃないですか)。世界中がざわざわしているときに、仕事をしながら、友人とやり取りしながら、笑顔でいたい。

 そう、笑顔で起きて、笑顔で寝たい。それが、今の目標です。大きく出たような、素朴すぎるテーマのような。そんな感じでひとつ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?