わたしが尊敬する人のはなし②

彼女とはマルタのレジデンスで出会いました。同じフロアに住んでいて、1月から長期滞在をしているという。英語のイントネーションに独特な訛りがあって、それを聞くたびにアジア人と過ごせる安心感があった。彼女はヨガの先生をしているそうで、最近は生徒に海外の方が増え、その人たちは彼女のポージングを見てまねることしかできず、アドバイスが理解できなくて、お互いに困惑していたそうだ。そういった人たちときちんとコミュニケーションを取るために、そして今後の自分の活動をよりグローバルなものにするために、彼女は英語を勉強し始めた。日常会話から英語で行うべく、はるばるマルタまでやってきたそうだ。彼女の生活は徹底していて、火の通していないものは食べない、同じ国出身者がいても英語で話す、英単語の発音は繰り返し音声を流して音読、授業のテキストは完璧に予習をする、先生の進め方が気に入らないと次の週から先生をチェンジして別クラスへ行く、休みの日も部屋にこもって勉強し続ける…。バカンスで来ている人たちとは圧倒的に熱量が違う。外国の社会人留学生のほとんどは仕事のために必要だから来たという。彼女もその一人で、ただただまっすぐにいた。彼女の人生のはなしを聞いたことがある。事情があって学校で英語を習ってこなかったこと、ヨガの先生の仕事がとても楽しいということ、マルタで最初はホームステイをしようとしたが、学校のくれた情報と全く異なり、それにクレームを入れるも対応が悪く、11か月の滞在期間すべてをレジデンスの一人部屋で過ごすと決めたこと…。彼女は言う。アジア人はみんな、嫌なことがあっても笑って「いいよ、いいよ」「わかったよ」というが、それは間違っていると。わたしたちはマルタに英語を勉強するために来た。それに対して学校にお金を払っている。それも安くない額を。それなのに学校側が横柄な態度を取ったり、職務怠慢するのなら、文句を言わなければならない。それが権利だ。それなのになぜみんな我慢するの?然るべきサービスを受ける権利があるのに、なぜ我慢しているの?そう熱弁した。このときの彼女の、しどろもどろだけどどうにか英語で真意を伝えようとする熱い姿勢は、たぶん一生忘れない。

"We should insist on our rights. We pay a lot of money. We have rights which get some comfortable daily life and enough education. We must insist on our rights."

彼女の持つstrong willがわたしに勇気をくれた。自分の権利の範囲のことはもっと主張をしていいんだ。我慢したらいい、なんて考えてはいけない。強い意志はきっとわたしの未来を明るく照らす。いまはもう彼女も帰国しただろう。次に会うときは、わたしの英語はもっと上達しているわ、と彼女は言った。わたしも、次に彼女に会うときはstrong willを持つ女性でありたい。彼女の熱に触れたあのときを思い出す度に、わたしは自分を奮起する。これもわたしの、尊敬のかたち。