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本棚の小説

前回わたしの人生に必要な漫画について書きました。今度は小説の本棚も見返してみようと思います。小説も一時期200冊くらい漫画に紛れて本棚を埋めていました。大学時代、通学に2時間ほどかけていたので、学校の本屋で安く買っては時間つぶしに読んでいたものです。でも何度も読み返したくなるものは数冊だけだと気づき、手放すと12冊に。いまもまだ本棚に鎮座するものについて書き出します。

◆ナラタージュ/島本理生(角川書店)
高校生の時、初めて買ったハードカバーの小説です。それまでずっと小説は文庫派でしたが、どうしても欲しい、とジャケ買いしたのを覚えています。雨で輪郭がぼやけた美しい緑と白いワンピースの女性のシルエットがとても美しい。中身を読んだ後、なおのこと美しく、作品に寄り添ったデザインと装丁だと思いました。当時この本は「この恋愛小説がすごい」の1位を取っていました。1位になる内容はどんなものか、と挑戦的な気持ちで読んで、好きな人を忘れられない気持ちやもう会うことができなくてもずっと心に残り続ける人がいてもいいことを知りました。映画化もされましたが、原作を読んでる身としてはカットされている場面が多すぎて、もったいないなあと思いました。あと葉山先生はもっと年上の心が疲れてそうな人がいい笑。この本を読むときは奥華子さんの『楔』という曲を頭の中で流しながら読みます。たぶん初めて読んだ当時にそれを聴いていたせいだと思います。わたしは小説を読むときはたいてい音楽を聴いていて、その中から小説のテーマソングを勝手に決めます。その曲を聴いたときに、小説の中身を鮮明に思い出して「読み返そうかな」となります。手元にない小説ですが、モームの『人間の絆』は宮野真守の『secret line』、サリンジャーの短編『キリマンジャロの雪』はKing gnuの『the hole』を聴くと読みたくなります。

◆ファーストラヴ/島本理生(文藝春秋)
島本先生が直木賞をとった作品です。彼女はいままで綿矢りさと金原ひとみと比べられてきました。彼女だけ大きな賞を取ったことがなかったからです。そんな彼女の初めての冠が直木賞であったこと、一ファンとして、とてもうれしく思いました。この小説を読んで最初に思ったことは「迦葉」という名前のなんて美しいことか、ということだった。彼の生きてきたこれまでと、小説後に続いていくだろう人生の想像に、こんな美しい名前を与えて人物を作るのか、と感動した。望んでか望まずか、この本を読んだときにわたしの中身はこれまでにないほどぐちゃぐちゃに荒れていて、救いも上昇もない絶望を味わっていた。傷を深くしてしまった気もするけど、その時に読めたからこそ自分の中身をさらに分析できたと思っている。この作品は母と娘の関係性についての描写がある。母親や周りの大人が作る道徳や倫理観が、ときに子供を歪めてしまう。きっとみんな少しずつそういう部分があるんだ。

◆生まれる森/島本理生(講談社文庫)
この作品は『ナラタージュ』の前身と言われる。これも先生に恋して、でも叶わなくて沈んでしまって、でも少しずつ迷子の森を抜けるように回復していく物語です。これもまた人生を悲観していたときに読んだ本ですね。こころもからだも傷ついた人が、どうやってゆっくり浮かんでいくかを丁寧に描いています。落ち込んでて負の連鎖から抜け出せないときに読みます。

◆ファミリーポートレート/桜庭一樹(講談社文庫)
これは大学生の時に暗いキャンパスと暗い図書館で読み続けていました。母と娘の話です。娘は母を神と信じて、母の言うことは何でも聞き、母の望むままに生きます。しかし母は姿を消し、その後の人生は長い余生となります。娘は小説家になりますが、ずっと母の幻影をおいかけて生きていきます。読んでいたころ母親との関係性について悩んでて、それはいまでもずっと悩んではいるけれど、当時は就職活動をしてたからなおのこと敏感で、母の生き方とわたしの生きたい道が交わらなくて、関係性の維持の難しさに苦心しました。この本の娘のように、母を神格化して生きていたら楽だったのかしら、なんて考えたことも。そんな物語です。あと、この本はわたしに「狂気」とはなにかを教えてくれました。それは人間の中に渦巻くもので、それを吐き出す穴を「表現」という。絵をかくのも文章を書くのも、狂気を吐き出す方法なのだと教えてくれました。

◆ほんとうの花を見せにきた/桜庭一樹(文集文庫)
バンブーとよばれる吸血鬼の話です。三部構成になっていて、わたしは”ちいさな焦げた顔”と”あなたが未来の国へ行く”が好き。前者はバンブーと人間の絆を、後者は姉弟の絆を描いています。わたしにも弟がいるので、そういう話には弱いです。

◆赤xピンク/桜庭一樹(角川文庫)
この作品は何度読んでも頭がふわふわします。ミーコが好き。少女が生きるには難しい世界なのかもしれない。

◆少女七竈と七人の可愛そうな大人/桜庭一樹(角川文庫)
各話のネーミングセンスが秀逸です。この作品はいつかアニメ化もしくは映画化してほしいと常々思っています。「母をゆるさないことだけが、わたしの純情です」という台詞に少女が込めた想いと、受け取る少年の気持ちに思いを馳せると涙が出ます。どうして好きって気持ちだけで一緒にいられないのかなあ、と。あとこれも母と娘の話だわ。

◆お菓子とビール/モーム(岩波文庫)
モームの作品は『人間の絆』や『月と6ペンス』のほうが好きなのに、なぜか手元にあるのはこの作品です。たぶん、ロウジーがなぜ旦那を捨ててジョージと逃げてしまったのか、いまだに理解ができないからでしょう。初めて読んだのが21歳の時。いま読んだら、わかるかしら…。

◆こころ/夏目漱石(集英社文庫)
高校生の現代文の教科書で読んだ続きが読みたくて買いました。何度読んでも先生がかまってちゃんすぎて、わたしには無理だなあ、と思う。

◆有頂天家族/有頂天家族 二代目の帰朝/森見登美彦(幻冬舎文庫)
アニメを観て、買いました。もともと森見作品の独特な言い回しや偏屈が好きなので、もちろんこれも面白かった。弁天様が魅力的で、あんなふうになりたいと思っていたら当時これを読んでいた会社の上司に「弁天様」と呼ばれるようになる。その人は自称・狸であった。気づけばそろそろ狸鍋の季節ですね。二代目の帰朝最後の弁天様の「……私って可哀相でしょう」「もっと可哀相だと思って」という台詞が結構ずっと頭の中に残って消えません。続きが楽しみです。

◆宵山万華鏡/森見登美彦(集英社文庫)
映像美が映える作品は数多くあるけれど、これもそのひとつに数えて遜色ないと思っています。”宵山金魚”を映像化するのがわたしの密かな夢です。頭の中にざっくりとしたイメージはあるのですが、いかんせん技術がない。せめてもとキャラデザのラフ画だけは描きました。次は建物のパースを取ろうと思います。

最近は図書館で本を借りることが増えたので、小説をあまり買わなくなりましたが、読書は人生を豊かにすると信じているので、継続させていきます。手元に増やすことは、たぶんもうあまりないでしょう。身軽に生きたい。