推し変

VTuberにおける、既存ファンを逃がさないリテンションマーケティングとは・因幡はねるのアンケート企画から

昨日の2月3日、多くのVTuberが節分にちなんだ企画をする中、因幡はねるは「最近推し変(他のVTuberに乗り換えたファン)が多いけど見捨てないで」とツイートし、さらに「推し変理由を教えてほしい」とアンケートを始め、その集計を見ながら語るという配信をやりました。

昨今のサービスでは、新規顧客を獲得するマーケティングも大事だけれど、今いる既存顧客をなるべく逃がさないための「リテンションマーケティング」が重視されていますが、このやり方はまさにリテンションマーケティングです。サービスを退会するときに「やめる理由は何ですか」と聞かれるやつですね。

VTuberがファンを増やすにはどうすればいいか、ということはよく語られますが、ファンを逃がさないためにどうするかという切口は珍しいし、貴重なデータだと思ったので、まとめてみることにしました。

推し変した人の声

たくさん来たという意見を、因幡はねるは何枚かの画像にまとめて紹介していましたが、私はそれをさらに、次の3パターンに分けました。

1:嫌いなところができた
2:もっと構われたい
3:飽きた

説明の都合上、この順番にしていますが、下に行くにつれて意見としては多いようです。

画像1

まず、この意見が一番多かったようですが、これはつまり「飽きた」ですね。新鮮味については、同じ話をすることがある、ゲームのリアクションが予想できるようになった、などの声があったそうです。

画像2

これは「もっと構われたい」と「飽きた」の複合です。VTuberって、ファンが応援して一緒に大きくなるという要素はあるので、そういう要素を重視する人の意見でしょう。

画像3

これは要は「飽きた」ですね。もっと面白い人を見つけたとしても、因幡はねるも見続けていいはずなので。

画像4

これは「嫌いなところができた」のパターンです。次のもそうです。

画像5

このへんは言いがかり的なものがありますが、この種の意見は相対的には少ないそうです。

画像6

これは「構われたい」ですね。下のはよくわかりませんが。

ほかに、飽きた系として「つまらなくなった」「忙しくなった」、構われたい系として「ねるちゃんに嫌われた」があり、あにまーれ(所属グループ)特有の問題として「メンバーの離脱が多い」などがありました。

理由1:嫌いなところができた

それぞれの理由について、なにができるのか考えてみます。まずこの「嫌いなところができた」については、改善できる気付きがあれば別ですが、人それぞれという話が多いので、あまり気にしないほうがよいのではないでしょうか。「男性VTuberのとコラボが増えたのが嫌」という人がいれば、「男性VTuberとあまりコラボしないのがつまらない」という人もいました。因幡はねるがニュース解説をする「ねるにゅー」という企画が私は好きですが、あれで嫌いになったという意見もあるそうです。相反することが多いので、VTuber本人がやりたいようにやるしかないでしょう。好きじゃない企画の時は見なければよいという話でもありますし。ネガをつぶして良い部分まで失ったら意味がありません。

理由2:もっと構われたい

これについて「構ってちゃんかよ」と切り捨てるのは簡単ですが、本質的な問題を含んでいます。他のコンテンツにはない、VTuber独自の魅力が「双方向性」なので。いちから(にじさんじ運営)の田角社長もそう言ってます。VTuberのスタイルにもよりますが、因幡はねるは元々、ファンをよく見て覚えているのが特徴でした。成長して人が増えたことで、ツイッターや配信のコメントなどで反応される頻度が下がり、双方向性が希薄になる傾向はどうしてもあるでしょう。イベントなどの準備仕事が増え、以前よりも交流の時間が取れないということもあります。物理的に仕方ないですが、方策があるとすれば、一つはファン側の意識を変えることでしょう。これについては後でまとめて書きます。

もう一つは、リテンションマーケティングの手法に、使えるものがあるかもしれません。これのキモは、「やめそうな人を見つけ出して、やめる前にアプローチする」です。顧客の動向をビッグデータとして解析して、「もっとこんなのありますよ」とオススメしたりするやつですね。できれば人が直接アプローチするのが一番効果があるとされます。VTuberであれば、離れそうな人に少し構ってあげるとかでしょうか。

因幡はねるは既に多少やってる気もしますが(浮気してる人に威嚇でいいねを押したりとか)、システム化できるといいですよね。フォロワーのツイートを分析して、離れそうな人を見つけるわけです。SNS分析ツールはいろいろあるし、あにまーれの運営は、そういうの得意そうだけどどうでしょうか。

ついでに分析と言う点で言えば、人が離れる時期を分析して傾向があるなら(たとえば月末が多いとか)、その時期に合わせて何かやるといった施策も考えられます。

理由3:飽きた

これが一番の問題です。サービス系のリテンションマーケティングでも、退会理由として一番多いのは「使わなくなったから」「別のサービスに移るから」で、たいてい半分以上を占めるそうです。

VTuberの場合、毎日のように配信していて、決まったパターンの配信もあるし、話のネタやリアクションにも限りがあるので、最初の新鮮さが薄れたらマンネリ化する部分はどうしてもあるでしょう。

テレビタレントであれば、長くやっているから飽きられるとも限りません。でもそれは、番組を制作している構成作家などのスタッフが別にいるからでもあります。配信系VTuberは、企画から実行までほぼ一人でやっている人が多く、発想には限りがあるでしょう。これは構造的な問題です。月ノ美兎がデビュー間もない時期に既に「私の中から出てくるものには限りがある」と危機感を語っていたのを思い出します。

一方で、VTuberにはポジティブな要素があります。テレビなどに比べて歴史が浅く、成長している最中だということですね。そして個々のVTuberも成長していて、テクノロジーも進化している。今後どうなるか誰にもわからない。VTuberは未来に生きているのです。

VTuberが流行りだしてから、まだ2年足らずです。まさに2年前の今日、2018年2月4日が、にじさんじが活動開始した日(月ノ美兎が最初に動画投稿をした日)です。配信系VTuberが確立した後も、当初は毎日配信するという人はいなくて、因幡はねるが始めたのが最初期くらいでしたが、今は普通になっています。VTuberがオリジナル曲を歌ったり、大規模なイベントをしたりということは稀でしたが、今は普通になっています。VTuberの数はコンスタントに増えて1万人を超え、新鮮な血も次々と入っています。テクノロジーの進歩とコストの低下で、出来ることも増えています。

個々のVTuberも、それに伴って成長してきました。新しい魅力的な人とコラボして、そのVTuberも新しい魅力を引き出されたり、イベントなど新しいことができるようになって、新しい発想が生まれたり。新鮮さが薄れるのと引き換えに、成長することで魅力が増えているはずです。

だからファンのほうも、それに合わせて成長する必要があるのでしょう。これは「もっと構われたい」の件にも言えますが、最初の頃と比べて「あの頃は良かった」と留まっている人は、成長した新しい魅力に気づけていません。成長していくのがVTuberの魅力で、「ある程度成長しちゃったから次に行く」ではVTuberの良さが味わえていないのでは? まだまだ先があるはずです。

新しい人も見ていいと思うし、特別な時だけ見るでもいいので、これと決めたVTuberを継続して見続けていると、いいことがあると思うんですよね。リテンションマーケティングの用語で、「カスタマーサクセス」というのがあります。顧客に成功体験をさせるのが大事ということで、VTuberで言えば「推しててよかった」と思わせることでしょう。VTuber界がよりメジャーになり、VTuberが成長するにつれて、「推しててよかった」という瞬間はたくさんあるはずです。私は因幡はねるのファンですが、これまで何度もあったし、これからもあるでしょう。例えば因幡はねるの夢だった、サンリオピューロランドでのイベントが実現した時とかですね。そういうものを演出していくことは大事だと思えます。

あとVTuber側でやれることとしては、自分が成長することはもちろんですが、ファンの啓蒙も必要ではないでしょうか。「VTuber界は成長途中で、自分はその中で成長していくから、ファンもいっしょに成長してほしい」と。因幡はねるの今回の配信は、まさにその一環だと言えます。隠れたテーマでしょう。

そしてファン側としても、過去を見てもしかたない、VTuberといっしょに自分も成長する、いっしょに未来へ行く、という意識が必要ですよね。

今回はマーケティングの観点で語りましたが、もちろんマーケティングだけでは実が無いわけで、VTuber本人の魅力が一番大事です。因幡はねるの今回の企画は、急に思い立ったようで、配信の1時間45分前になって、推し変のアンケートをマシュマロで募集しはじめました。ファンが拡散したこともあってたくさん集まったようですが、そのたくさんの意見を短時間でまとめ上げて、「推し変理由を見つつ、泣きそうになったら恵方巻を食べる」という謎の企画を成立させていました。こんな人はなかなかいないと思えます。ファンが一定数離れるのは仕方ない部分もあるけれど、人気があるVTuberには特別な魅力があるはずで、そこは自信を持って欲しいですよね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?