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4年前のPCのCPUを最新の第12世代Intel Core(i7-12700K)に換装する

この記事は、自作やショップブランドのデスクトップPCを持っていて「第12世代インテルは良さそうだからそろそろ載せ換えたいな」と考えている方むけです。あるいは最新事情をあまり追ってないけれど手っ取り早く知りたいという方に。

私は自作PCをいじるのが好きですが、CPUについては4年前にi7-8700K(第8世代)にしてから手をつけていませんでした。惹かれるCPUが無かったというのが主な理由です。インテルのライバル社のAMDでは最新プロセスを使って微細化が進んでいましたが、自社で製造しているインテルは微細化の開発に失敗して長いこと微細化が進化していませんでした。それでAMDのRyzenにマルチスレッド性能や電力効率で抜かれ、焦ってバランスの悪い製品を出したりしていました。

しかし第12世代でやっと微細化が進み、様々な工夫も導入して良いものになりました。インテルの久々の傑作という声もあります。主な特徴はハイブリッド・コアで、2種類の性質の違うCPUコアを搭載して使い分けているのがミソです。コア数はi7で12個で、第8世代のi7は6個だったので2倍になりました。

私が今使っている4年前の第8世代Intel、i7-8700Kと比べると、第12世代の i7-12700Kはシングルスレッド性能(1つの仕事だけをやるときの能力)で1.6倍、マルチスレッド性能(複数の仕事を同時にやる時の総合力)で2.5倍に向上しています。そろそろ変えどきと言ってもよいでしょう。

必要なものと予算

CPUを更新する場合はたいてい、マザーボードも更新が必要となります。ソケットに互換性があればそのまま使えるのですが、第12世代からLGA1700という新規格になったので買うしかありません。最近のインテルはすぐに規格を変えがち。

メモリはDDR4を持っていればそれが使えますが、第12世代はDDR4に加えてDDR5メモリもサポートします。DDR5は高性能ですが、出始めなので割高です。この記事を書いている時点(2022年1月)で、16GBを2枚で4万円~5万円以上するのでDDR4の3倍くらいしてますね。「だったら最初はDDR4で後から」と思っても、マザーボードはどちらか一方にしか対応していないのが悩ましいところです。

あと忘れてはならないのがCPUクーラーです。LGA1700はクーラーを取り付ける穴の位置も変わっているので基本的には対応品が必要になります。メーカーによってはLGA1700対応のマウント(リテンションキット)を無償配布したり、有償で売っています。最初からLGA1700に対応した製品も(記事執筆時点では少ないですが)存在します。後述しますが、第12世代では高性能なCPUクーラーを使うことが推奨されます。

これらを買うことになりますが、予算はざっくり10万円以下と設定しました。4年前に8700Kにしたときは6万円ちょっとでやれましたが、当時より今のほうがいろいろ高いのです。でも3~4年使うとしてこれくらいまでは出せるでしょう。逆にあまりしょぼいと長持ちしないですし。

以下に参考までに価格を書いていますが、ツクモやドスパラの1月17日時点の価格を基準にしています。

CPUの選定 - Core i7 12700K

まずCPUとして何を選ぶかですが、候補としては i9 12900K、i7 12700K、i5 12600K のどれかになります。性能比較はこちらの記事がわかりやすくまとまっています。

これによるとゲーム性能はどれも大差ないですね。ゲームはGPU性能が重要だし、CPUのコアがたくさんあっても使い切ることが少ないからでしょう。シングルスレッド性能はi9とi5でも5%くらいしか変わりません。

マルチスレッド性能は i5 より i725%高く、さらに i7より i925%高いという関係になります。動画作成などクリエイティブ系に利く性能ですね。i9は強力ですが電力効率が悪く、冷却に気を遣う必要があることが記事からもわかります。

第12世代は高性能の「Pコア」と高効率の「Eコア」を混在して搭載しているのですが、i9とi7の違いはEコアの数で、Pコアは同じ8個です。i5はPコアが6個に減ります。より性能に利くのはPコアなので、i7がバランスがよさそうに思えます。ゲームがメインならばi5でも十分ですが、私はクリエイティブ系の性能が気になるので、せっかくならということで i7 にしました。価格差は1万4千円くらいですし。Core i7 12700Kの2022年1月現在の値段は5万3千円くらいです。

マザーボードの選定 - MSI PRO Z690-A DDR4

マザーボードの種類として、まずチップセットの違いがあります。第12世代用は Z690B660で、主な違いはオーバークロックに対応しているかどうかです。私はオーバークロックするかもしれないのでZ690にしましたが、しないならどちらでもよいでしょう。値段は仕様が同じなら大差はありませんが、Micro ATXなど小型のマザーボードにB660が多いので安めのものが多いです。

値段は全体に高めですね。第8世代のときに私は「MSI Z370 GAMING PLUS」というゲーミング用のエントリー機種を1万6千円で買ったのですが、第12世代用はシンプルな機種でも2万円代後半です。高いなぁと思いましたが、よく見るとそのクラスの機種でもCPUソケットの周りに電源レギュレーターがいっぱいあります(写真の色のついたパーツ)。私が買った機種で16個あり、前述の第8世代のものは6個だったのでだいぶ贅沢になっています。

第12世代は(後述しますが)大電力を長時間かけることが前提の仕様になっており、それに耐える作りになっているから高いのでしょう。

ASRockのB660のものは1万円台後半でありますが、レギュレーターが少ないのでやや不安ですし、USB3.2 Gen2といった今風のインタフェイスも付いていません。でもそれらを気にしないなら安さ重視で買ってもよいでしょう。個人的にはASRockで以前苦労させられたので買いませんが。

私はMSI PRO Z690-A DDR4を選定しました。MSIは何回か使っていてASUSと同じくらい信用しています。2万9千円弱で、第12世代用としては安めの機種になりますが、最新のUSB3.2 Gen2x2はついているし、M2スロットが4個、SATAコネクタが6個など拡張性豊富です。LANもインテルの2.5ギガビットです。ASUSの近い機種(PRIME Z690-P D4)と比べて拡張性が上なのでこちらを選びました。GIGABYTEのZ690 UD DDR4 はレギュレータが多いのは良さそうですが、LANがインテルではなくRealtekなのが嫌でした。ただ趣味の問題で、この3機種は大差無いでしょう。

MSIには同一仕様でメモリがDDR5仕様の機種もあります。PRO Z690-Aという名前で紛らわしい。DDR5も検討しましたが、こちらの記事などみるとDDR5の効果はかなり微妙です。ゲームではほぼ差がなく、クリエイティブ系の一番差がついたテストでも11パーセントくらい。

これに4万円以上かける効果は薄いと思ったのでDDR4にしました。私は一応 DDR4としては速めのメモリ(DDR4-3200)を使っているので、これをそのまま使います。価格.comの売れ筋を見ても上位はDDR4のモデルばかりですね。将来的にDDR5の優位性が出るかもしれませんが、その時は安くなってるでしょうからマザーボードごと買い替えることもできます。

CPUクーラーの選定 - Noctua NH-U12A chromax.black

第12世代はベンチマーク性能が向上してAMDに勝てるようになりましたが、理由の一つは電力規制の緩和です。CPUには通常の最大電力(TDP PL1)と、一時的にブースト状態で突っ込める最大電力(TDP PL2)の2つの基準があり、ただしブースト状態は数秒間に限られるという仕様になっていました。「ずっとブースト状態」というチューニングも可能でしたが非保証でした。

それが第12世代ではPL1=PL2の「ずっとブースト状態」が公式設定になったようです。実際私が買ったマザーボードはデフォルトがその設定になっており、それに耐えられるように電源レギュレーターを増やして対処しているのでしょう。しかもひどいことに最大電力設定が4096ワット、つまり無制限になっています。無制限に突っ込むとCPUが高温になりますが、CPUとしての制限温度の100度に達するまでは無制限に電力をかけられるという設定になっているのです。

これはマザーボードの設定の話で、インテルの推奨はi7-12700Kの場合で190Wです。つまりPL1=PL2=190Wですね。それにしても、i7-8700KのPL1は95Wですからだいぶ発熱が増えることが予想されます。

つまり、第12世代で性能を出すためには冷却が重要ということです。巷のベンチマークはたいてい電力無制限の設定で計測されており(多くのマザーボードのデフォルトがそうなので)、ものによっては200W以上の電力を消費します。その電力に達する前にCPU温度が100度に到達したら、自動的にクロックが下げられるので、同じ性能は出ないことになるからです。また100度で常用はあまりよくないので、より冷やすに越したことはありません。

そうなると水冷を検討することになりますが、私は考えた末に空冷にしました。こちらの記事などが参考になりました。簡単に言えば、水冷でも最終的には空気で冷やすわけなので放熱器の面積で性能が決まります。最新の空冷CPUクーラーの放熱器の面積は下手な水冷を上回っているし、故障の少なさという点からも空冷が合理的という話です。

私の場合は手持ちのケースの問題もあって水冷は選びにくく、空冷もあまり大型のものも入らないので、サイズのわりに性能が高いという Noctua NH-U12A chromax.black を選定しました。性能が良い代わりに空冷としてはかなり高価で、1万7千円もしましたが。

ただし、電力がリミットの190Wを超えるようなのは一部のベンチマークソフトの実行時だけ、言ってしまえばcinebenchくらいで、ゲームや普通のソフトではそこまでCPUを使い切ることはありません。OCCT(オーバークロック用に負荷をかけるソフト)でさえ120Wくらいです。それくらいの電力ならば、こちらの記事によれば「虎徹 Mark II Rev.B」でも十分使えそうなので、5千円以下で買えるのだからこれでよいという考え方もあります。Rev.Bなら標準でLGA1700用にも対応しています。

部品購入~組み立て

というわけでCPU、マザーボード、CPUクーラーを買い、合計9万9千円ほどになりました。一応予算内です。CPUクーラーがいくぶん贅沢なので、ここで妥協すれば1万円くらい減らすことは可能でしょう。さらにCPUをi5にし、マザーボードをASRockの安いものにしてとコスト重視作戦なら6万円くらいも可能になります。それでも性能は大差は無いのでコスパは良いと言えます。

信頼性のあるMSIのマザーボードを使ったおかげもあり、組み立てはとてもスムーズで一発で起動しました。動かなくてトラブルシューティングすることもありますから。

システムのSSDなどはそのまま使いましたが、マザーボードを交換したために起動直後はWindowsのライセンスが無効になっています。違うマシンになったと判断されたのですね。でもWindows10ではマイクロソフトアカウントとあらかじめ紐づけをしておけば、認証サーバーに接続することでラインセンスを取り直すことができました。昔は電話しないといけなかったやつですね。

あとは必要なドライバ類を入れれば完了で、元の環境のままCPUが高速になりました。問題無くあっけなく終わりましたが、一点だけ気になることが。その一点というのは「CPUクーラーが思ったより冷えない」という問題で、ただしこれは実用上の問題は無くて趣味の世界であり、長くなるので別記事にします。

使用感・クリエイティブ系

新しいマシンを組み立てたらまずやることは、ベンチマークですよね。以前のCPUから理論値では2.5倍速くなっているのですが、実際にそんなに差がつくことはありません。CPUが全力で計算する時間だけが待ち時間ということは無いからです。気になるのは現実にどうなのかなので、実際にやる作業がどのくらい速くなったのかを計測しました。

ここで言う「理論値」はCinebenchのスコアを比較しています。純粋にCPUの計算力の差を表していると考えるからです。

Adpbe Premiere(動画編集)

まずは動画編集のAdobe Premireです。これは私が編集した15分ほどの動画ですが、PremireだけでなくAfter Effectでレイヤーを重ねたアニメーションもあるし、After Effectsで作ったモーショングラフィックステンプレートを多用しているのでそれなりに重いです。

これを MP4 (H264 1080p)に書き出す速度を以前のマシンと比較しました。メディアキャッシュを毎回削除しています。
・i7-8700K      9分34秒
・i7-12700K    5分37秒

つまり1.7倍速くなりました。十分体感できる速度改善です。また、Premiereの編集中の動作も軽くなっていて、重いシーンをプレビューする時のカクツキが少なくなりました。

Sound Forge (サウンド編集)

次はサウンド編集ソフトです。1時間45分の録音データ (48kHz 24bit)全体にT-RackS ONEというプラグインで処理をかける(聞きやすくするためのマスタリング処理をする)時間を測ります。待たされるのがいつも嫌で。
・i7-8700K      3分52秒
・i7-12700K    2分29秒

つまり1.55倍です。この処理はシングルスレッド(1つのコアしか働いていない)なので、マルチコアが必要な処理ほどは差が開きません。新CPUはコア数が増えたことでも性能を稼いでいるからです。シングルスレッド性能の理論値は1.6倍で、それに近い数値が出ていると言えます。これも明確に速くなって嬉しいやつですね。

DTM・DAW 

DTM(DAW)ではソフトウエアシンセサイザーが特にCPUを消費します。鍵盤で指定された音をCPUで合成し、それをPCのオーディオから発音するのですが、このときに処理時間が必要なので発音に遅れが発生します。遅れが大きいと、鍵盤を弾いてから音が出るまでラグがあるので弾きにくくなります。

前のCPUでは、Arturiaのソフトシンセなど重いものではレイテンシを9.89ミリ秒(128サンプル)以下にはできませんでした。それでもやや怪しかった(たまにノイズが出ていた)のですが、新CPUでは4.35ミリ秒(16サンプル)に設定しても余裕です。これだけ速ければハードウエアのシンセサイザと比べても遜色無い反応で、かなり嬉しいですね。

また、DAWで全トラックを再生するときには多くのソフトシンセやエフェクトが同時に動くので、マルチスレッド性能が必要です。CPU消費を気にしてエフェクトを減らしたりということはありますが、これまでより余裕が持てるでしょう。

使用感・ゲーム系

ゲームはCPUよりもGPU(ビデオカード)が重要なので、CPUが多少速くなっても影響が少ないことが多いです。3DMarkでベンチマークを取ると、グラフィックスのスコアは当然変わりませんでした。GPUはGeforce RTX2080です。
一方でCPUのスコアは7550から15986に2.1倍向上しました。CPU負荷の高いゲームではフレームレートが向上することもあるでしょう。

こちらの記事によれば、サイバーパンク2077で i7-12700Kは優秀な結果だそうですが、試しても違いはわかりませんでした。そもそも以前からモニターの上限である60fps出ており、CPU使用率を見ても25%くらいなのでネックになっていません。CPUの差が出るのは主に高フレームレートの場合で、144fpsのモニターなどを持ってる方は違いが出ると思います。

ゲーム前のロードは短くなった気がします。ロード中でもゲーム中と同じグラフィックを出しており、その裏でロードやセットアップをしているのでCPU負荷が高いのでしょう。パフォーマンスモニターで見てもロード中にCPU負荷がガツっと上がります。だからCPUが速くなった恩恵で起動が速くなるのは理屈に合っています。

あとゲーム配信をやる方は、CPUが配信で使われてもコアが増えたことでゲームへの影響が減るので、ゲームの性能がより安定する効果があるかもしれません。

内蔵グラフィックスの性能

私はビデオカードを使っているので関係ないのですが、内蔵グラフィックスの性能も向上しているので、内蔵グラフィックを使う派の方ならばその恩恵もあるでしょう。試しに「FF14 暁月のフィナーレ ベンチマーク」を内蔵グラフィックで動かしたところ、FHDの標準画質で「普通」の評価になりました。実際普通に動いており、結構いいじゃんと思いましたね。CPU負荷が高いゲームですが、その点はばっちりで足を引っ張ることがないですし。

ただ、よりグラフィックがリッチなFF15のベンチマークではFHDの軽量画質でも「動作困難(1779)」でした。APEX Legendを動かすと解像度が自動的に 1280x720pに設定され、その状態では 50~58fpsで動きましたが、FHD 1920x1080pでは40fps台になりました。遊べなくはないというレベルです。

FF14くらいの、それほどグラフィックが重くないゲームを遊ぶ用途であれば内蔵グラフィックも使えるのではと思いました。もちろんハイエンドのビデオカードには遠く及びませんが、ローエンドのGTX1030くらいの性能はあるようです。

使用感・Web系など

ブラウザでのJava Scriptの性能を計測するJetstream 1.1 というサービスで計測しました。

・i7-8700K      234.24
・i7-12700K    421.95

と1.8倍になりました。思った以上に伸びてて驚きましたね。これだけ違えば体感できるはずで、実際Evernoteなど重めのWebサイトで軽くなったなと感じます。また、DMMなどのブラウザゲームも操作のキビキビ感が向上しました。普通のゲームはGPUの影響が大きいですが、ブラウザゲームはCPUで処理する部分が多いので恩恵があるでしょう。

アイドル時の消費電力

第12世代Intelは最大消費電力が高いですが、それは電力をバカ食いするベンチマークソフトを動かした場合です。そんなことは普通ないし、動画のエンコードなどもそう長時間やるものではありません。ゲームでCPUをめいっぱい使うことはありません。電気代にいちばん利くのは何もしていない時や、Webなど見ていて負荷が軽いときの消費電力でしょう。それが増えるのかは気になるところです。

PC全体の消費電力をワットチェッカーで測ってみると、アイドル時の消費電力は旧マシンも新マシンも66Wほどで変わりませんでした。ブラウザでYouTubeなど見ると3Wくらい増えるのも同じです。電気代はおそらく同じくらいということが分かりました。

満足度

4年ぶりのCPU・マザーボード交換で、費用はそれなりにかかりましたが、最新スペックにアップグレードされて性能向上が体感できるので満足しました。第12世代Inter Coreが優秀なことも実感しました。ちょっとした快適性の違いではありますが、毎日使うものなのでPCに愛着が持てることは大事だと思いますね。「最近CPU換えてないな」という方はこの機会にどうでしょうか。

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