おじさんはグミ食べない

VTuber切り抜き動画の編集方針・YouTube用の場合

以前に、切り抜き動画を作成する時の個人的なノウハウをまとめた記事を書きました。Twitter用の短い動画を作ることに慣れているので、それを対象にした内容でした。

最近、因幡はねるちゃんのYouTubeチャンネルのための切り抜き動画を作っています。TwitterなどのSNS用の動画は、短いほうが見られやすいというデータがありますが、YouTubeは視聴時間が長いほうがおすすめや関連動画に出やすいので、長めのほうがよく、長くてもちゃんと見てもらえるかが重要になります。

尺が長いなら、シーンを厳選するのが楽かといえば、全然そんなことはないですね。長くても飽きさせないのは本当に難しく、どのシーンを切り抜くのかの意思決定がむしろ難しいと感じます。今回は、YouTube用の切り抜き動画の作り方について、思うところを書いてみます。

トップダウンとボトムアップ

意思決定の手法として、「トップダウン・アプローチ」「ボトムアップ・アプローチ」ということがよく言われます。例えば投資判断であれば、市場の状況を広い視点で分析し、その上でどれに投資するのか決めるという方法がトップダウン・アプローチです。逆に、個別の案件で良さそうなものを選び、それを集めてポートフォリオを組むのがボトムアップ・アプローチです。

切り抜き動画でどのシーンを選ぶかという意思決定も、この二つの考え方があるでしょう。はっきり分かれるというより、どちらに軸足があるかということかもしれませんが

トップダウン・アプローチ:大きな流れを意識しつつシーンを切り抜く
ボトムアップ・アプローチ:面白いシーンを切り抜いて集める

いろんな切り抜きを見ますが、ボトムアップ・アプローチのほうが多いように感じます。インパクトのあるシーンを並べたようなものですね。そういうのも面白い(ものによってはめちゃくちゃ面白い)し、元動画的に、そのやり方がベストということもあるでしょう。でも、「このVTuberさんは本当は、全体的な流れも面白い配信をしていたかもしれなくて、そこは伝わらないな」と思うことがあります。

トップダウン・アプローチは、配信の中にある大きな流れ(ひとまとまりで面白い部分)を保ったまま、必要なところを切り抜いて短くする作り方です。切り抜き動画だから短くする必要があるけれど、切り詰めすぎて流れを失わないようにバランスを意識する必要があります。説明的な部分が増えるのでテンポが悪くなりやすいという問題があります。

いろいろ難しさはあるし、万能ではないけれど、可能ならトップダウン・アプローチで作りたいと私は思っています。面白いセリフをつまみ食いするよりも、配信全体の面白さやVTuberの魅力が伝わると思うので。

ケーススタディ

トップダウン・アプローチについて、実例で説明します。以下は因幡はねる(以下敬称略)と、バ美肉VTuberの兎鞠まりのコラボ配信を切り抜いたもので、できれば先にこの動画を見て頂きたいです。見なくても分かるようには書きますが、おかげさまで好評で再生数も多く、面白いはずなので是非どうぞ。

元配信の「どっちが本物の女子なのか!?萌え萌え女子力対決!!!」を見た時は、すごく面白いが、切り抜きは作りにくそうだと思っていました。どこが面白いというより全編面白いし、セリフがキャッチーなところを切り抜いたら、「因幡はねるがひたすら兎鞠まりにセクハラしている」みたいな内容になりそうで。

でも別の放送の中で因幡はねるが、まりちゃんコラボが評判良かったと嬉しそうに話していて、ならば切り抜きがんばってみるか、と見返してみたのでした。

この回はセクハラの印象が強かったけど、ちゃんと見返してみると、タイトルにもあるように「女子力対決」がテーマで、「企画用意してたけど全部無しにする」と放言しつつも、しっかりそのテーマで進行していることに気づきました。「おじさんと女子力対決するが、おじさんに完敗して自分のほうがおじさんなことが露呈し、でも負けは認めない」という流れです。兎鞠まりも、ちゃんとその流れに沿ってしゃべっています。そもそもセクハラトークは、その流れでやっていると言えます。

全部なしにする

女子力対決という流れで見ると、改めてすごく面白いことに気づくのですが、問題は、セクハラとそのリアクションが面白すぎて、せっかくの女子力対決の印象が薄まっていることです。

1つの配信の中にはいろんな流れが複合していることがあり、トップダウン・アプローチで編集する場合には、どの流れに乗るかをまず考えます。ここでは「女子力対決」の流れで編集することに決めました。セクハラのインパクトに負けないためにどうするか、については、女子力などを点数化してスコアボードに表示するというアイデアが浮かびました。それにより「女子力対決をしている」ということがはっきり伝わるだろうと。

おじさんはグミ食べない

作ってみて面白いと思ったけれど、ちょっと目立ちすぎかという心配もありました。実は効果音も付けているのですが、やりすぎに感じてボリュームをゼロにしました。二人がしゃべっている後ろにヌッと出てきてスッと引っ込むくらいのほうがいいだろうと。でも、そもそもこれ邪魔じゃないか? 滑ってないか?と心配したりもしました。公開されて、ちゃんとウケていたようで安心しました。

どの流れに乗るか

トップダウン・アプローチのためには、どの流れに乗るかをまず決めると書きましたが、その例としてもう一つ。

これは以前にニコニコ動画にアップしたものですが、元々が多人数コラボだったので、いろんな流れがありました。人生相談に答えるという企画ですが、この中で「陽キャ代表」の朝ノ瑠璃と「陰キャ代表」の因幡はねるとの対比が面白かったので、二人の言動を対比させるという流れで編集しました。二人もその流れをバリバリに意識してトークしているので、そこを切り抜くだけで面白いものになりました。

理想の切り抜き編集とは

元々、大きな流れがそんなに無い配信もありますよね。雑談配信などの場合にそうなりがちですが、それでもなんとなくはあって、なるべく表現したいと思います。

下のは雑談配信からの切り抜きで、服を買いに行ったという日常話から、なぜか昭和ネタの応酬になり、そこから結婚式のスピーチの話になって、服の話に戻ってくるという流れに味があるよなと思っています。インパクトのあるセリフも面白いけど、こういうところにも因幡はねるらしさがあると思って、表現しようとしています。服の話を長めに入れたりしているのはそのためですが、編集が未熟ゆえにあまり伝わらないかもしれません。

まりちゃんコラボは流れが分かりやすいですが、あれはスコアボードという飛び道具を使って強引に「わからせた」感があり、たまにはいいですが、あまり飛び道具に頼るのはどうかというのもあります。本来は、編集してあることを見る人にあまり感じさせず、でもしっかり編集してあって面白いというのが理想だと思うのですよね。元々の配信の良さを最大限に生かすということで。

切り抜きは奥が深く、日々精進という話でした。

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