見出し画像

VTuberについてのありがちな歴史観

リアリティーショーを批判しているオタクもVTuber見てんじゃん」という記事が話題になっていて、私も読んで、よく見かける批判だなと思えました。だから直接的な反論というわけでなく、VTuberについてよくある意見について、常々思っていることをこの機会に書いてみます。

はっぴいえんど史観

その昔、「はっぴぃえんど」というバンドがありました。細野晴臣、大瀧詠一、松本隆、鈴木茂という凄いメンバーで、後年、作曲家・作詞家・プロデューサーとして一時代を築いた人たちです。そんな「はっぴぃえんど」は伝説のバンドであり、日本のロックの礎を築いたと言われています。私はリアルタイムには知らないので、歴史として「そうなんだ」と思っていました。

でも、そういう「歴史観」に異を唱える人々がいることを後に知りました。はっぴぃえんどはそもそもセールス的に売れてなくて、当時のロック少年にはほぼ無名だったと。日本のロックは、グループサウンズなど大衆音楽でエレキにあこがれた人たちが本場のロックの洗礼も受け、自分たちでも始めたことから広まった草の根的なムーブメントであって、はっぴぃえんどは少なくとも日本のロックシーンのメインストリームにはいなかったと。

ではなぜ、はっぴぃえんどが日本のロックの祖であるという伝説が出来たかといえば、メンバーが後年ビッグになったので再評価されたことと、”評論家”とか”文化人”には当時からはっぴぃえんどを見出していた人たちがいて、そういういう人たちが思い入れのこもった記事を書き、歴史を作ったからだと。いわば「はっぴぃえんど史観」というわけです。

一般大衆のムーブメントと、文化人たちの語る歴史は違っていることがあって、前者の空気感というのは後世に残りにくく、後者のほうが歴史として残りやすいということはあるでしょう。

VTuberについての歴史観

VTuberにも似たような話があると思えます。バーチャルYouTuberの元祖であるキズナアイちゃんは、自分は高性能AIであってシンギュラリティを導くのだという理想を掲げていました。ねこますさんは、VRChatを紹介し、バーチャルなコミュニティの可能性を示しました。初期のファンたちは、そんなVTuberたちの理想に共感し、ピュアにバーチャルな存在がどんな未来世界を見せてくれるかにワクワクしていた、という歴史観です。そしてVTuberが増えるにつれ、その理想が失われていったと。

でも本当にそうでしょうか? 本当に最初期は別として、大半のオタクにとっては、「可愛いアバターを着た子が面白いことをしている」ことに飛びついたのではないですか? ねこますさんがブレイクしたのは、可愛くて面白いからだと思えます。コンビニ店員というリアルも面白さの一部でした。キズナアイちゃんもAIだからというより、可愛いから人気が出たはず。「技術の進化を見たい」なんて大半の人は思っていないから、2Dのにじさんじが流行ったのだし。リアルとバーチャルとの境界があいまいなVTuberも、かなり初期からいました。

「技術や社会のバーチャル化の先駆けとしてのVTuber」に期待していた人たちはいたし、例の記事の方が引用しているエウレカ(文芸誌)の高尚なVTuber特集は私も読みました。でもそれは文化人的な素養がある人やSF好きなど一部の人の思い入れではなかったかと。

また、当時の空気感を知らずに、一部の人が語ったピュアな歴史をそのまま信じてVTuberに物申している人もいるように思えます。ロック創成期をリアルタイムに知らなかった私が、はっぴぃえんど史観をそのまま信じていたように。

私は、VTuberという大衆オタク文化のメインストリームは「アバターを着て面白いことや可愛いことをやれば何でもあり」であって、流行の最初からそうだったと思っています。

それでもVTuberは未来を拓く

と書いたものの、私はVTuberが未来を拓くことに期待していて、今も期待感を持っています。例の記事の方はコラボが嫌いなようですが、私はVTuberのコラボにこそ未来を感じますね。

「レディプレイヤー1」という映画がありましたが、あの世界では人々は仮想世界で現実と別の姿になり、別の社会生活をしていました。いわゆるメタバースですが、ああいう時代はいずれ来ると思っています。

VTuberは初期のころから、所属する企業などを超えてコラボする文化がありました。生身のアイドルグループなどではあまり無いことです。個人の裁量で知り合いを増やし、コラボをし、「VTuber村」のような社会を形成しています。多くの人はコラボ相手と直接会ったこともなく、本名も知らないでしょう。まさに、レディプレイヤー1のような仮想社会がそこにあります。「レディプレイヤー1」はゲームシステムを基盤にした社会でしたが、VTuberの社会は創発的なものなので、より未来だとさえ思います。自分自身もいずれ、仮想社会で生きると思うからこそ、先駆けであるVTuberの社会でどんなことが起こるかに、興味を持って見ています。

VTuberは自分の切り売りか

生配信系のVTuberは、自分の体験をネタにトークすることが多いので、自分を切り売りしているという部分はあります。それは月ノ美兎さんが、活動の最初期に既に言っていました。アーカイブが残っていないのですが、2018年の4月頃です。でも否定的な話ではなく、だからラジオ番組的な配信をやりたいという話でした。リスナーからの投稿でコーナーを作ったり、ゲストを呼んだりすることで、新しいものを生み出すことができると。

当時はかなり新しかったのですが、今のVTuberはほぼこれを踏襲していますよね。ゲストとコラボ企画をしたり、リスナーが参加できる企画をしたり、そうやって相互作用することで、新しいことが生まれるし、成長もしていきます。消耗するだけではないのです。だからいろんな意味で、コラボは大事だと言えます。「リアリティーショー」と揶揄するのは簡単ですが、そういう表面的なことではない、背景に何を感じられるかでしょう。

ところで、私が冒頭にあげた記事を知ったのは、私が編集した因幡はねるちゃんの切り抜き動画を引用したツイートに、「タイムリーだ」というコメントがいくつも付いていたからです。何のことだろう?と調べて、あの記事に行きつきました。元の配信はその記事よりも前なので、もちろん無関係にしゃべってるわけですが、たしかに内容的にタイムリーかもですね。

最後にその動画を紹介して終わります。関係する発言は、12分45秒くらいからです。この世界で懸命に生きている現役VTuberの意見ということで、私が語るより説得力があるでしょう。ちなみにこの動画は公開して3日で28万再生されており、おかげさまで好評です。コラボによる相互作用で価値が生まれる例にもなっているので、ぜひどうぞ!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?