歳の差婚。なんてことない

 いままでの上司は全員、50代や60代のおじさんたちだ。建築業界ということもあって社内の男性比率は高く、母数が多いため管理職もほぼ男性。そういうわけで、どこに行ってもたいていの場合、上司はおじさんになる。
 
 直属の上司になった人に関しては、誰のことも嫌いじゃなかった。女性がめずらしい環境で甘やかされたのもあるだろうが、誰もひどいパワハラやセクハラをしてはこなかった。皆よく働き、よく面倒を見てくれる。
 
 そういう環境下で「結婚するなら、こんな感じのおじさんたちもいいな」と思っていた。年齢は気にならない。頭の中に住むおばあさんは「アラ、働き盛りのオトコっていうのはいいもんだねえ」と目を細めている。
 
 就職したての頃、課長のひとりが一度「メルシーさんのお父さんは、歳いくつ」と聞いてきたことがあって「父はわたしが生まれたとき40代だったんで、いまもう70超えてますね」と答えた。
 
 課長は「ああ、よかった。だって、もし(僕らが)結婚することになったら、お父さんより上ってさ……」と言ってから慌てたように、いやいや今の忘れて、と打ち消した。この人は50代で独身だった。
 
 別にあわてて打ち消さなくてもよかった。自分のほうも「この人いいな」と思っていたから。子ども好きで、仕事の評価は高く、社内でも信頼されており、課長だったのも束の間のことで、すぐに部長になり目の前のデスクから消えてしまった。
 
 本当に付き合おうとしたことはないけど、おじさんたちを見ていて「こういう人たちとの結婚もいいなあ」と思うことは多々あった。60歳なんてまだまだ若々しい。そんな感じ。
 
 結局のところ自分が結婚したのは、同い年の旦那さんだった。そのせいで何を言っても説得力に欠けるかもしれない。ただ、個人的には歳の差婚は「なんてことない」ものだと思ってるし、25歳女性と50歳男性が結婚したくらいではぜんぜん驚かない。
 
 周りの女の子たちは「10歳上までなら、普通にいけるよね」と言っていて、この感覚はめずらしくないんじゃないかな……。みんな本当のところ、年齢よりも重視している何かがあって、それさえハマれば実年齢は問題じゃなくなるんだろう。
 
 もっとも、当時の自分のこういう考え方を聞いた父親は唸っていた。
 
「おまえなあ……仮に20年上の男と結婚してみろ、おまえが60になったとき、向こうは80だぞ。もういい爺さんだ。今はいいように見えてもな、将来的にそいつのほうが先に老けていくんだぞ。人間が歳を取るときっていうのは早いんだ、これが」
 
 父は「娘がジジイと結婚したらどうしようかしらん」と少しは本気で心配したらしい。
 
 もっとも、その父親も一時期、12歳年上のレディーとの再婚を本気で考えていた。父70歳、お相手82歳。わたしの新しい母になったかもしれない彼女は、父としばらく付き合ったあと、ボケて連絡が取れなくなり、父親も結婚を諦めた。
 
 大学時代の後輩は、2年ほど前に8歳上の男性と結婚した。大人っぽい彼女のことだから、同世代は子どもっぽく見えたのかもしれない。なにも不思議じゃない。
 
 婚約を祝うついでに
「○○さんはすごい大人びてるから、年上の人との結婚は『そうだろうな』って思います」
みたいに言うと、彼女は
「どっちかって言うと、彼のほうが子どもで」
と朗らかに笑っていた。「年下のお姉さん」というのは矛盾した表現だけど、彼女にはそれがよく似合う。どうぞお幸せに。
 
 そんなこともあって、性格とか価値観とかなんとかそういうものさえ合えば、たぶん年齢は結構どうでもいいものだよ。なんて思いながら生きている。父が結婚を考えた女性は、いつも素直で、何をしても喜んでくれる人だったらしい。12歳の差なんて問題じゃない。

本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。