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独り占めしなくて良いと自分に許可を出せた日のこと

朝から胃の辺りがフワフワしていた。空港に着くまでに落ち着こうと思っていたのに、バスの中から、次のバス停に立つJO君を発見してしまった。

空港に行くバスは30分に一本で、きっとそうだろうと覚悟はしてたけどやっぱりそれは現実だった。

「それ、僕が叶えてもいいですか?」

あの日そう言ったJO君は、軽々としたスピードでスケジュールを整え、飛行機とラグジュアリーな海辺のリゾートホテルを取ってくれた。

「わあああ・・・。なんか全然グランディングしてません私!」バスの狭い座席の隣に座ったJO君に正直に告げると「そんな事がわかるなんてめめこさん流石ですね。可愛いですね。」と褒める。 どんな球でも打ち返してくる。絶対に褒める。感心する。

目的の島までは30分のフライト。搭乗口の階段を下りると、駐機場に待機するプロペラ機が目に入る。タラップに向かって、係の人に誘導されながら歩く人の列の一番最後に、私たちは少しだけ離れて歩く。 少し先には、デニムのポケットに財布を入れて、片手にペットボトルの水だけ持ったお爺ちゃんが、よたよたと歩いている。なんという軽装なのだろう。

「あのお爺ちゃん、路線バスに乗る人みたいだね、飛行機に乗る人に見えない(笑)」と、JO君に言うが、聞こえていなみたいだ。プロペラは既にゆっくりと旋回していて、風の音が煩くて、そんなどうでも良い話は搔き消されて丁度よかった。

空港にはホテルからの迎えのドライバーが私たちを待ってくれていた。

私のバッグは、私の手を介す事なく、JO君の手からドライバーの手へと渡り、車のトランクに収まった。

ホテルに着くと、またドライバーの手からドアマンの手に渡った私のバッグは、ちょこんと、私の背後のラックに収められている。ボーっとウェルカムドリンクのハーブティを飲んでプールを眺めている間にチェックインは終わっていた。

もうとっくにお昼を過ぎている。朝ごはんを食べる習慣のない私だけれど、全然お腹が空いていなかった。満たされている感覚がずっとあった。これ以上何も要らないなあ・・・・。

部屋は私がリクエストしたそのままだった。

朝突然思い出してJO君に伝えた「シャンパンを飲みながら泡のお風呂に入りたい」というリクエストも、JO君はかなえてくれた。

プリティウーマンのジュリアロバーツみたい。でも苺の事を忘れていた。あの映画を見たのは何年前だったのかな。帰ったらもう一度観てみよう。

彼は見た事があったのだろうか。13歳も年下のJO君はあの映画ができた頃、一体いくつだったんだろう。生まれていたのかな・・・。笑いがこみあげてきた。

「プリティウーマンていう映画観た事ある?」ないよね、という前提で聞いた私の顔を見つめ返しながら 「ありますよ」とJO君は言った。

長い戯れの後、結ばれた。

何度も何度も「めめこさんはどうされたいですか?」「めめこさんはどこを触られたいですか?」「どんな風にされたら気持ちが良いですか?」「今どんな事を感じてますか?」と聞かれた。

その度に、頭の中が混乱した。「私とは何者か」 そんな事を聞かれている気がした。

どれだけ自分を粗末に扱ってきたのか、JO君といると気が付かされて、胸がキュンとする。 「何がしたいか」 聞かれてもすぐに答えられない。

だけど、「大切にされてるだけでいいのだ」 という感覚が私の全身に満ち溢れて幸せだった。ただ彼からの愛を受け取っておきさえすればよかった。

「受け取ってくれてありがとうございます。めめこさんのお陰で僕も幸せです。」 ただ受け取るだけで満ちる。その満ちた愛を返すと、彼が喜ぶ。エネルギーが循環して無限に拡大していく。豊かさで世界が潤っていく。


軽口が付いて出た。

「独り占めしたくならない様に気をつけよっと!」 ほんの戯れ。恋という遊びの中で出る、単なるリップサービス。

彼が言った。

「独り占めしてもいいですよ。めめこさんなら。」

びゅーん!!!と体の中に血液がめぐる。知っている!この感覚は!!!脳内に快楽物質が分泌される。このまま沼の中にはまっていく。その沼はとても気持ちがいい。溺れるとわかっているのに、深く深く入りたいと思ってしまう沼だ。

と、ふと我に返った。

なんだか満たされていたのだ。沼に入らなくても。私は。

「しなくて大丈夫。独り占めは。」そう答えてもう一度彼と抱き合った。

「独り占め」は楽しい。 自分という女の価値を見せつけてくれるから。他の99人の選ばれなかった女に比べて、わたしだけが選ばれし価値のある女だと知らせてくれる。それは何よりも快楽だ。

自分を愛せなかった過去の自分は、いつもそうやって、誰かに自分の価値を見出してもらう事を渇望していた。

めめこは特別だよ。と耳元で囁かれるとき、私はやっと自分の価値を見つけられた気がして、快楽に震えた。

けれどそれはいつも長続きしなかった。

ホテルを出て別れたその瞬間から、私はまた価値のない女になる。愛を求めてさまよう。絶対に満たされない欠けた自分のピースを探して暗闇の中を手探りで。あの時、森のテントの中で見つめ続けた自分の手のひらのように、目を凝らしても凝らしても絶対に見えない、欠けたピース。

あの森を出て10年の月日を費やして、わたしはわたしを愛せるように、いつしかなっていた。10年。一言で言うとあっという間な10年。

今私は、自分を愛している。誰かと比べなくても、誰に言われなくても、存在しているだけで特別だ。その感覚を今改めて体を通して知ったのだ。

ここにある愛を、JO君と二人で見ているような感じだった。

「愛してる」とか「愛されてる」とかじゃくて

ここに無限にある愛を、二人が感じてる。そんな感覚だった。

愛は独り占めしなくていいんだと、はっきりと私の魂が感じた生まれて初めての経験だった。








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