なんとかアンクル
人生最初のアルバイト経験が、楽しいものだったなら、私の人生は今より変化があったのだろうか。
学生の時に人生初アルバイトをした。
周りは多くの人がアルバイトをしてるのに、自分だけはなぜか運悪く学生不可だったり、時間帯が合わなかったりで、採用されず、焦りを感じていた。
そんな中で求人チラシが家に届いて、もうこれしかないなと思って応募した。
民家のような、小さな食品工場で半年アルバイトをした。
しかしそれはとても苦痛で、悲しみが溢れ続けるような日々の始まりだった。
私の心は壊れていった。しかし学校にいる間は明るく振舞っていたので、毎晩泣いてることなんて誰も知らなかったし、順調にアルバイト出来てるんだと周りも思ってたと思う。
私にとってその半年間はトラウマの塊で、思い出そうとしたら血の気が引いて泣きそうになるくらい辛い記憶だ。そんな記憶が決して少ないわけじゃないから余計に辛かった。
思い出したくなんてなかったのに、ふいに思い出してしまうことが多かったので困っていた。
そしてこんなことを考えていた。
「辛い経験と記憶が美化出来たら、少しは楽になるのだろうか」
過去なんて変えられないのだから、無理だろうけど。
でも、なんとなく、ネットで検索してみたら、「なんとかアンクル」という方法があるというのを目にした。
「なんとかアンクル」の正式な名前がもう思い出せないし、なんて検索して出てきたのかも思い出せない。
その方法というのは、こんな感じだった。
左手首をギュッとつかんで、嫌な記憶を思い出し脳内再生する。
そのあと、右手首をギュッとつかんで、その嫌な記憶を美化したものを脳内再生してみる。
そうすることで何がいいのかよく分からないが、おそらく、それを自分の中に刷り込むことで、右手首をつかんだときに自動的に脳内では楽しい作られた記憶が再生されるようになって嫌な記憶を克服できるというものなんだと思う。
嘘でしょ、と思いつつ何度かやってみた。
変化は感じてないつもりだったし、嫌な記憶であることには変わりなかった。
でも、気づいたらその感覚と記憶が結びついていた。未だに不思議と右手首をつかむと楽しい作られた記憶が脳内再生されるようになっている。
匂いと記憶は結びつきやすいとよく聞くが、それと似たようなものなのだろう。
感覚と記憶が無意識に繋がっているから、「なぜ今?」と思うような、楽しいことや嫌なことをふいに思い出すのだろうか。