見出し画像

『精神の生態学』グレゴリー・ベイトソン

ブックカバーチャレンジ 5日目
『精神の生態学』グレゴリー・ベイトソン 新思索社

画像1

この本は紹介するかどうか、大変に迷った。紹介しない方がいいのではないかと思われる理由は以下の三点。

1. わかる人には大変に面白いのだが、普通の人が普通に読むと、ベイトソンが何を言っているのかよくわからない
2. 出版元の新思索社がついこの前倒産してしまって、本の入手がいっそう難しくなった
3. 700ページ近い本で、やたらと分厚く凶器になりうる

それにもかかわらずこの本を紹介したいと思うのは、そういった問題点を合わせて考えたとしても、そんなものを帳消しにするほどの素晴らしいアイデアがこの本の論考の中には散りばめられているから、ということになる。

複数の論文やらスピーチの内容やらがまとめられた本なのであるが、内容は非常に多岐にわたる。「これは何について書かれた本なのか?」そう問われると、答えに困る。

とりあえず、目次からいくつか論考のタイトルを引用してみよう。

・物はなぜごちゃまぜになるのか
・バリ―定常型社会の価値体系
・プリミティブな芸術の様式と優美と情報
・遊びと空想の理論
・精神分裂症の集団力学
・ダブルバインド、1969
・学習とコミュニケーションの階型論
・「自己」なるもののサイバネティクス
・クジラ目と他の哺乳動物のコミュニケーションの問題点
・冗長性とコード化
・都市文明のエコロジーと柔軟性

一見した限り、わけがわからない。

ベイトソンは一体何を研究している人間だったのだろうか?

心理療法の世界ではダブル・バインド理論を考案した人間として彼は有名である。だが、彼の著作を見る限り、彼の興味と思考は心理療法にとどまるものではない。

ベイトソンは、最初、文化人類学者としてパプアニューギニアやバリ島でフィールドワークを行い、現地人のコミュニケーションパターン分析を行った。その後、催眠療法家ミルトン・エリクソンやその弟子たちと共同で心理療法におけるコミュニケーションパターンについて研究した。晩年はイルカやタコの研究をしていたようだ。

ベイトソンの研究対象は、国民性や民族性など大きな集団に向けられることもあれば、家族などの小さな集団に向けられることもあれば、一個人とその個人を取り巻く周囲の環境に向けられることもある。ときには、イルカやタコなど人間以外の生物にもその関心は向けられる。

だが、そこに共通するのは、こういった生命体は他の個体や外界と情報のやりとりを行っていることだ。情報伝達のルールは物理的な世界のルールとは異なる。ベイトソンは言語、非言語を問わず、そういった情報のやりとりを「コミュニケーション」として捉え、そこに一貫して見られる「パターン」を見つけ出そうとしていた。

ぼくもそのベイトソンのアイデア魅せられてしまった一人で、だからこそSMマトリックスも自然と出来上がっていったのだと思う。SMマトリックスのベースとなっている「対称性」「相補性」という概念も、ベイトソンによって提唱されたものである。もしもぼくが『精神の生態学』を読んでいなければ、SMマトリックス(*1)はこの世に生まれなかったかもしれない。

とにかく、内容は高度なため、じっくり時間をかけて丁寧に読んでいかないと理解できないが、それに見合うだけの素晴らしい価値がある本である。


*1  ぼくが考案した対人コミュニケーションパターンの分類方法。近日中にノートにもまとめた形で内容をアップする予定。興味のある人は以下のtogetterのまとめ「SMマトリックス概論」を参照。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?