見出し画像

【感想】ETV特集「パンデミックが変える世界 紛争地帯からのSOS」

もともと医療のインフラが脆弱だったり、治安が悪かったりする発展途上国にとって、新型コロナウイルスは、かつてなかった大きな災いをもたらすと言われている。先進国に住む人たちの関心が薄いのも問題だ。しかし、この番組を見るまで、その現実をはっきり理解することはできていなかった。アフリカ、コンゴの紛争地域で性暴力に苦しむ女性たちを救っている医師デニ・ムクウェゲ氏のインタビューをもとにしたドキュメンタリーだ。

コロナ危機がもたらす紛争地域の悲劇

コンゴ東部では、もう20年も紛争が続いている。なんと150もの武装勢力が勢力争いを繰り広げており、虐殺やレイプが横行している。ムクウェゲ医師は、これまで3万人にも及ぶレイプ被害者の女性を治療し、その功績からノーベル平和賞を受賞してきた。現在も性暴力と向き合い続け、世界に向けて、この問題に無関心にならないように発信を繰り返している。

そんな、ムクウェゲ医師を悩ませているのが、コロナ禍における状況の悪化だ。

武装勢力が争い合っているのは、コンゴの貴重な鉱石(レアメタル)の利権を得るためだ。そして、この利権を手に入れるために、武装勢力が使うのがレイプだ。コンゴではレイプが「武器」として使用され、子供や女性たちを辱め、家族を守れなかった男性の士気を下げ、町を乗っ取る手段になっている。実はコロナ禍で、性暴力や虐殺が急増しているという。2020年の上半期だけで1446件の暴力事件、3000人の死者が出た。これは、過去最悪のペースで暴力事件が増加していることを表している。

その理由は、パンデミックで鉱石取引が停滞し、利益を得られなくなった武装勢力が近隣の村を襲撃して奪略を繰り返していることにある。コロナ禍の中で4万5000人以上の難民が生じた。彼らは村を離れウガンダの国境まで逃げてきたが、コロナウイルスの蔓延を理由に入国できず、現在も国境付近にとどまっている。国連の報告によれば、2020年の難民の数は過去最高になる予想だ。

問題の根は深い。ムクウェゲ医師は、コンゴにおける「不正義」が正されない限り問題は解決しないと繰り返し訴える。不正義とは、虐殺や性暴力の問題に国際社会が関心を向けて介入していないことを述べている。

国際社会への根深い不信感

残念なことに、コンゴ国内では感染症の予防や治療のために、国際的な援助を受け入れるのが難しい。地元の住民の多くが、感染症予防のために、外国からの援助があることを好ましく思っていないのだ。それは、過去に、何度も性暴力や虐殺に対してのSOSの声をあげ続けてきたにも関わらず、国際社会はその声を無視してきたからだった。国連の報告書は10年前に、コンゴで起きた600件以上の虐殺や性暴力を告発し、国際法廷で犯罪者を裁くことを訴えた。

しかし、そのようなSOSは無視されている。というのも、コンゴ国内の大統領や閣僚などの重要なポストに武装勢力出身の人たちが多く、国際社会はコンゴ国内の問題を正すことができないからだ。結局、問題は先送りされコンゴ住民の多くが「国際社会から見捨てられた」と感じている。しかし、いざ、ウイルス(感染症)の問題となると海外から医師団がやってきて積極的に介入をしようとする。アフリカで発症したウイルスが蔓延すると、自国にも害が及ぶために、ウイルス問題は先進国にとっても無視できないのだ。この「都合の良い」介入を、地元住民は憎む。

国際社会への根深い不信感は、デマやフェイクニュースなどにも表れる。過去にエボラ出血熱が流行した時期には「エボラは海外から持ち込まれた」というデマが広がった。その結果、海外から援助に来ていた国境なき医師団やスタッフが殺害されたり、治療所が焼き討ちされる事件が相次いだ(なんてことだ)。コロナウイルスの援助に関しても同じような問題が見られるのではないかと、ムクウェゲ医師は案じている。すでに、コロナウイルスに関するフェイクニュースも飛び交うようになっている。

一部の人はコロナウイルスの存在自体を信じていない。この状況で、国際社会がコンゴのウイルス対策に乗り出すのは簡単ではない。ムクウェゲ医師は、コンゴが抱える根本の問題。性暴力や虐殺が横行する状況を改善しなければ、コロナウイルスの治療や予防だけを切り取って介入することは難しいと指摘する。

感想まとめ

当初は、コンゴの紛争や性暴力が、コロナ危機と何の関係があるか分からなかったが、だんだん事情が飲み込めるにつれて絶望的な気持ちになった。問題の根が深すぎるって。コロナに関しては国際社会も無関心ではない。感染症の問題は、世界の問題で、自国でコロナを克服しても世界のどこかでコロナが流行していれば、それは瞬く間に世界中をかけめぐってしまう。だから、全世界が一致してコロナを抑え込まなければならない、これが識者たちの共通の意見だ。

そして、言葉だけではなく、ワクチンの公平な分配を目指す「COVAX」などの仕組みや、ゲイツ財団の尽力も素晴らしいと思った。しかし、全世界の人に公平にコロナ対策を行おうと力を尽くせば尽くすほど、紛争地域にいる地元住民はその姿勢に先進国の「利己心」を感じ取るのだ。こうした事情が分かるにつれて、何をどうして良いのかわからなくなり、フリーズしてしまう。複雑に絡み合った糸のようだ。

そんな中で、絶望することなく、ひたむきに性暴力と闘い続けるムクウェゲ医師の姿に感動した。「なぜ、あなたは、そこまで頑張れるのですか」というインタビュアーの問いかけに「私は人間を信じている。私は人々が前向きであることを信じている。大多数の人は本当は事態を正したいと思っている。結束することさえできれば、問題は必ず解決できる。」と力強く語った。

まずは、こういう声が世界に届くところからだ。無関心は罪だから。

これまでとは違った観点でコロナ危機を学んだ。世界は広い。どの国から見るかで、コロナ危機も様々な側面を持っていることが分った。今まで、あまりにも知らな過ぎたと反省したなぁ。もっと世界の問題に関心を持とう。

#NHK #ETV特集 #パンデミックが変える世界 #紛争地帯からのSOS #道傳愛子 #デニ・ムクウェゲ  

大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq