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震災の復興と傷を残すこと【感想】目撃!にっぽん「震災10年の“言葉”を刻む 〜小説家・古川日出男 福島踏破〜」

あまりに、災害も多すぎて、東日本大震災の記憶も上書きされそうになっている自分に気づいた。震災10年目。風化していく傷跡を忘れさせないために、小説家・古川日出男さんが19日間・280キロ、福島を歩きながら取材の旅に出た。古川さんは、この旅を通して一冊のルポルタージュを書き上げるつもりだ。

古川さんは、福島県郡山市の出身。東京に出てきて35年。心のどこかでは「福島を捨てた」と感じてきた。しかし、大震災を見て、いてもたってもいられなかった。震災直後に、原発地区に入って取材を行い一冊の小説を書き上げた。しかし、それから10年。震災の記憶はどんどん忘れられていく。

小説家である自分が、この記憶を言葉として残さなければならない。その使命感で、古川さんは、再び福島に向かった。福島が味わってきた苦しみを、共に経験するがごとく、徒歩で歩き通す取材の旅だ。

復興と消えゆく故郷

古川さんの創造力の源は、福島の豊かな自然だった。少年時代は森の中に入って、様々な動植物と触れ合い、そこでイマジネーションを膨らませた。しかし、もう、その森はもうない。今では、森はなくなり、太陽光発電のソーラーパネルがそこに置かれている。

福島県は再生可能エネルギーの拠点として復興を遂げつつあった。9mもの津波で600名が犠牲になった南相馬市。もう家が建てられない区画には、一面のソーラーパネルが並ぶ。「良いことだと分かっているんだけど、なんで嫌な気持ちなんだろう」とつぶやく古川さん。

傷を残していくこと

髙村さんというシングルマザーを取材しているうちに、その気持ちの背後にあるものが分った気がした。震災当時、髙村さんの子どもは4歳だった。今では中学校2年生。最近、その子が「大学に行って倫理学を学びたい」と言い出した。結局、それは「大人は何をやっているの?」という子供の心の叫びだった。

自分たちの世代が、子供たちに負わせてしまっているものを考えて、髙村さんは涙した。一言で言えば、それは「未来への罪悪感」だ。福島が負った傷は癒えない。太陽光発電による福島の復興は、まるで、傷をなかったかのように隠している。でも、傷はずっとそこ(被災者の心)にあるのだ。髙村さんは語り部として体験を語り続けることで「かさぶたをはがして、傷を残していかなければならない」と言った。

震災後の復興は良いことなんだけど、負った傷が、まるでなかったかのようにふるまうのは良いことではないんだ。傷は傷なんだから。忘れたいような辛い経験だったけど、それを風化させてしまうことは避けたい。相矛盾するような気持ちと苦しみ続ける被災者たち。正直なところ、私なんかには、考えたこともない葛藤がそこにあった。

福島出身の古川さんだから書けることがある。福島が復興に向かうことは良いことだ。そして、それに伴い、記憶が風化していくことは避けられない。だからこそ、それを「言葉」にして残す人がいなければならない。最初見た時には、あまりピンとこなかったんだけど、森崎監督の「記憶は愛なんだ」という言葉が、沁みるようになってきた。

追記:そういえば、朝ドラ「エール」も福島出身の古関裕而がモデルのドラマだ。震災10年目、ほんと、福島にエールを送りたいよね!

#目撃にっぽん #震災10年 #古川日出男 #NHK

大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq