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「死ぬ前に決めておくこと」―葬儀・お墓と生前契約 松島 如戒

誰しも、いつ死ぬかわからないので、備えは事前からしておくべき。ふとしたことから「生前契約」を知った。死後の事務から葬儀まで、まるで家族のように、すべてを代行してくれるサービスを提供しているNPOりすシステムだ。

この団体を立ち上げた、著者の松島さんは「僧侶」だが、職業としての僧侶になることは放棄したのだそうだ。著者のNPOが年末からお正月をはさむ一ヶ月間24時間体勢で葬送に関するあらゆる相談を受けた記録が報告されているが、まさに、こういうことが、これから葬儀を考えるにあたって扱っていかなければいけないんだと参考になる。

ちなみに、相談数ランキングは以下のようになったという。

1位 生前契約についての相談
2位 自分らしい葬儀(特に何もしない葬儀)の相談
3位 墓に関する相談
4位 寺に対する不満・苦情
5位 遺言や相続について
6位 葬儀の費用に関して
7位 散骨について

*1ヶ月で646件の相談を受けたそう。

この本の後半は、著者の関わる「生前契約」というシステムの宣伝(啓発)となっているが、そのシステムを生み出すに当たり、現在の葬送に関して「合理的な視点」で物事を見ているというのがもっとも参考になった。

葬儀とは何か(合理的な視点)

何を持って「葬儀」というのか、その定義は、著者と私は殆ど同じだった。私も葬儀から儀礼や儀式的なものをすべて取り払った上で、死後に関わる事柄を出来る限りシンプルにするための方法を考えている。この本の序章に出てくるこの考え方だ。

「(葬儀をしない葬儀)とは、このようなセレモニー性を拒絶し、変革した上で、人の死後事務を考えようという発想である。・・・あえて自画自賛するが、前段の葬儀が葬儀のすべてではなく、人が死ねば必ずしなければならないこと、すなわち遺体の処理、生活をしていた「場」の後始末、死亡届に始まる諸所の法律上の手続き、これらこそが「葬儀」の基本で原点だ・・」

「死ぬ前に決めておくこと」―葬儀・お墓と生前契約 岩波書店 松島 如戒(P21)

私は、徹底的にシンプルな生き方をしたいと願っているわけで、生前はシンプルに生きるものの、葬儀やその後は、ゴテゴテにお金がかかり、手間をかけて、家族を疲弊させるのは本望ではない。

仏式の葬儀も、由来をたどっていくと、決して本来の意味での宗教的な儀式ではなく金儲けのための式典と化しているのは明らかだ。しっかり、自分の遺志をもち最期まで自分の人生を生きるために、死後のあり方を考えるのは良いことだ。松島さんはこの点を「死者の人権」という。

遺言するなら公正証書

終活を考える際に、遺言は避けて通ることができない。この本で、直筆の遺言書と、公正証書の違いを十分なくらい理解することができた。松島さん曰く、直筆の遺言書だけあっても、なかなか役に立たないという。「公正証書は、早く言えば裁判の判決と同じ効力を生じる。」(P91)からだ。

手書きの借用書と、公正証書の例で説明されているが、友達にお金を貸して手書きの借用書を交わした場合には、お金が帰ってこない場合には裁判所に証拠書類を持って訴えにいき、審議の後に、判決が出て初めて差し押さえなどになる。これを最初から公正証書で交わしていたらどうなるかというと、公正証書があれば裁判という手続きは一切不要で裁判の判決と同様の法的効力を発揮するのだ。即座に差し押さえができることになる。

ちょっと、例がアレなのですが、よく理解できる。とすると、遺言書を確実なものにしたいと思うなら、選択肢は公正証書しかない。

「遺言するなら公正証書」というのが私の主張である。この方式は自筆証書の対極にあって、「往きは手間ヒマを要するが、死後は安全確実」な遺言である。」(P101)

「葬儀などの死後事務については、遺言者の「死」の瞬間から遺言の効力が発生するので、遺言者の生前意思を直ちに実行に移すことができる。このメリットは大きい。」(P106)

「死ぬ前に決めておくこと」―葬儀・お墓と生前契約 岩波書店 松島 如戒

公正証書を作るための費用は数万円?なので、確実な遺言を残そうと思えば、この方法が確実だ。中盤から後半は、この公正証書に関する記述に著者は頁を割いているが、それは、生前契約という著者が提唱するシステムがうまく機能するために公正証書が欠かせないからだ。

生前契約はハッピーエンドに

生前契約を交わした誰かが亡くなると、著者のNPOはすぐに活動を行う。故人が予め指定した方法で、死後事務を行い、葬儀を手配する。相続に関する事柄も扱うが、普通は家族がやろうとしているところに、このNPOが故人の意思を確実に尊重して物事を行うのは簡単ではない。

ところが公正証書があれば、いわば有無を言わせないわけだ。

「本人が事前に、関係者に生前契約をしてあることを告げていた場合は、問題は皆無とは言えないが少ない。まったく知らされていない人が多い場合、除幕はやや険悪な空気がみなぎる。第二幕は「ホッとした」という空気が流れ、死者への尊敬の念がみなぎってくる。故人はそこまで考えて自分たちに迷惑をかけない手はずを整えていたのか、というのがおおかたの関係者の実感である。

このときの黄門様の印籠に匹敵するのが、生前契約の契約書や遺言公正証書などである。関係者それぞれに利害関係もあり、「本心」はともかく、建前として生前の本人意思が公正証書や自筆による書面などにより明確に示されたことに対して異を唱えることは、まったくといってよいほどない。第三幕は・・「ハッピーエンド」・・・「私たちも生前契約をしておかなきゃね」という会話が行き交う。」(P156)

「死ぬ前に決めておくこと」―葬儀・お墓と生前契約 岩波書店 松島 如戒

故人の意思を確実に遂行するためには、法的な武装がある程度必要だ。特に金銭が関わる問題は大いにもめることがある(相続など)。いくら、自筆の遺言があっても、感情的にもめる。これが、法的な書類なら、感情問題をクリアできる。

単に葬儀の行い方だけではなく、相続や遺言という問題も踏まえた上で、生前契約の考え方は大変示唆に富むものだった。独身で、頼る人が誰もいないとしても、死後の片づけを頼むことができる業者は複数あるので、選択肢として覚えておいて損はない。

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大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq