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【感想】BS1スペシャル「クライメート・ジャスティス パリ“気候旋風”の舞台裏」

気候変動はすでに議論する余地もない。毎年のように訪れる異常気象。地球が破滅の瀬戸際にいることは、誰にでも分かるような事実だ。この問題に関して、声をあげ続けているのは若者たちだ。2019年9月には世界中の400万人が参加するデモ行進(グローバル気候マーチ)が行われた。若者たちはクライメート・ジャスティス(気候正義)を掲げデモ・抗議行動を行い政府や企業に影響を与え、社会が動き出している。

こうした気候運動の始まりはフランスのパリの若者たちだった。ラ・バーズという団体を追ったドキュメンタリーだ。

過激な環境活動家たち

日本ではほとんど報道されないから知らないのか(私が無関心だったのか)分からないけれど、フランスはすごいことになっているのだなと驚いた。コロナ禍での学生と警察の衝突は、この前知ったけど(参考:【感想】BS1スペシャル「市民が見た世界のコロナショック 11月~12月編」)もっと過激な運動が生じていたのだ。

2019年2月にラ・バーズは人々の注意を向けるために大胆な行動に打って出る。パリの役所に入り込み、マクロン大統領の写真を外して盗んだのだ。それをネットで生配信した。これが注目を浴び、若者たちが次から次へと役場に忍び込み、マクロン大統領の写真が外された。環境問題に弱腰なマクロン大統領への警告のためだ。
若者たちの行うデモやストライキなどは無視できない影響力になっているため、マクロン大統領も環境問題に真摯に取り組むという声明を出した。しかし、この事件に関わった若者たちは、集団窃盗罪で起訴されている。まあ、当然と言えば当然だろうか。

写真を盗むのは、まだかわいい方だ。ラ・バーズは2000人の若者たちを集めて、CO2排出量の多い巨大企業や環境省が入っているオフィスを封鎖し、誰も入れなくして座り込みを行った。また、あるメンバーは企業のウェブサイトに大量のメールを送信して、外部との連絡手段を遮断した。この行動の結果として、ある電力会社はCO2排出量を4割削減する目標に向けて努力すると約束した。
2020年10月3日には、若者たちはフランスの空港を襲い?CO2排出に関して責を負う航空機産業に圧力をかけた。ターゲットにされた企業は戦々恐々という感じだろうか。

クライメート・ジャスティス

ラ・バーズは「非暴力」を行動の指針としており、攻撃はしない。しかし座り込みをしたり、業務を妨害したりして圧力をかける方法で「正義」を押し通す。そう、これは「正義」の戦いなのだ。クライメート(気候)・ジャスティス(正義)というキーワードは、今の社会に大きな影響力を与えつつある。
若き環境活動家たちが変えたいのは社会のシステムだ。そのため、政治家や企業を動かすためには、時には過激なことをする。注目を浴びなければ、世論を動かすことができないからだ。

番組の中では、2019年3月16日に行われた大規模なデモ行進(フランス全土で36万人の若者を動員)が撮影されていたが、ちょうど、この時に同時に起こった「黄色いベスト」運動の暴動のほうがニュースの一面になり、彼らのデモは大きく取り上げられなかった。メンバーはこのことに失望していた。自分たちのメッセージを伝えるためには、大胆な行動が不可欠なのだという。
そして、現在、実際に多くの企業が気候問題を視野に入れたビジネス上の取り組みを行っている。というより、今は、気候問題を無視してビジネスができない時代になっている。若者たちの活動の成果と言えないこともない。

新しい啓蒙の力

若者たちのエネルギーとSNSを活用して多くの人を動かす力はすごい。しかし、同時にこのドキュメンタリーを見て、正義を振り回す若者たちの集団、ちょっと怖いなと感じた。物事を動かす際に、手段としてデモやストライキを用いることの怖さだ。非暴力とは言うものの、彼らの圧力のかけ方は暴力にも似ているようだった。政府や企業への脅しだからだ。

自分たちの主張を押し通すために、いつでもデモやストライキを使うようになると理性的な話し合いを行えくなくなるのではないか。(まあ、若者たちは政治家に相手にされないので、あえてそのような手法を用いるのだろうけれど。)

先日見たズームバック×オチアイの中で、ドイツの哲学者マルクス・ガブリエルは今後の社会を変えるために「新しい啓蒙」が必要だと述べていた。それは誰も排除せず、強制せず、コツコツと「気づき」を与えていくことだ。一つの行動が何を生むかを粘り強く伝え続けることだ。(参考:【感想】ズームバック×オチアイ「2021 大回復(グレートリカバリー)への道」

私は、本当に人(社会)が変化するのは暴力ではなく啓蒙だと信じる。ドキュメンタリー映画の中でアル・ゴア氏は啓蒙や国家間の交渉の中で、環境活動を推し進めていた。

アル・ゴア氏の行動には「新しい啓蒙」のひとつの形を感じたが、この姿は気候運動に携わる若者たちにはどのように映るだろうか。方向性は同じだろうか。それとも違うだろうか。

色々考えさせられたが、冒頭でも述べた通り、フランスではけっこう過激なことが起こっているんだと知ったのが収穫だった。世界のニュースは、あえて取りに行かないと、ほとんど耳に入らないものだし。

#BS1スペシャル #クライメートジャスティス   #気候運動 #ラバーズ #NHK

大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq