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答えて終わりにしない!ストレスチェックを上手に活用するポイント

厚生労働省が義務化しているストレスチェック制度の今について、心理カウンセラーであり健康経営アドバイザーでもある中井裕規氏に、Mental-Fit代表の各務がその内情に迫っていきます。

義務化から約7年経ったストレスチェックの現在

各務: 2015年に厚労省のストレスチェックが義務化されてから、改めて社会的にメンタルヘルスに注目が集まってきたと思います。企業にとって最初はどのような意識の変化があったのでしょうか。

中井: 当初は、ストレスチェックをメンタルヘルス対策のスタートとしてどんどん広まっていくだろうと期待があったのですが、残念ながら実際はそうではありませんでした。「法律だからやる、とりあえず義務だからやらないといけない」といった意識をお持ちの企業が多かった印象です。
企業のご担当者様のところにストレスチェックの納品に行っても、ただただやらないといけないからアンケート取ってるんだ、というような温度感で、とても残念に思っていました。受検する従業員の方々も「健康診断に項目が増えたのか?」ぐらいの感覚で回答されている感じでしたね。

各務: 意識の問題はとても重要だと思います。欧米では前向きにメンタルヘルスに取り組みたいという企業や従業員がいる一方で、日本は義務だから「やらされている」というネガティブな気持ちが強い印象ですよね。
ストレスチェックが義務化されてから7年経った2022年現在、ポジティブな意識の変化は見られてきたのか、もしくは未だにやらされている感はぬぐい切れないのか、で言うとどのような潮流がありましたか?

中井: 今だんだん二極化してきていると思います。ストレスチェックがあるから、少し意識される企業担当者が増えてきたと思います。
例えば、実際に高ストレス者だった人が休職してしまい、積極的にメンタルヘルス対策に取り組もうとしているような、意識の高い企業もいらっしゃいます。
一方で、高ストレス者と判定された結果を見ても、なかなか具体的に反応できない企業も事実いらっしゃいまして、かなり二極化してきている印象があります。

各務: なるほど。日本に昔から根付いている「ストレスが溜まるのは自分の気合いが足りてないからだ!」といったある種の体育会精神も、まだその名残を感じられるというのが現実ですよね。

一次予防として活用

▶ストレスチェックはツール、どう使うかがポイント

各務: ストレスチェックに負のイメージがある理由のひとうに「アンケート形式」と言うのもあるのではないかと考えています。実際そのポジティブ面・ネガティブ面にはどのような点があるでしょうか。

中井: ストレスチェックはやはりツールなので、「どう使うか」というところが1番大事だと思います。使い方を誰からも教わってない、社内教育されてないなど、活用の仕方が分からない人にとっては、本当にただただアンケートに答えて終わり、になると思います。個人の結果が返ってきても開封していない人がたくさんいらっしゃるという現状からも、本当に役に立っていない事例が散見されます。
やはりこの57項目の質問だけでは分からないことの方が正直多いと思います。この項目だけで高ストレス者と出たけれども、実際は元気ですという人にとっては、「なんだこれは役立たずだな」と思われるでしょうし、しんどいと思っているのにこの57項目では結果悪くなかった人にとっては、「そうなの何か変だな」という残念な結果にもなります。この57項目で完全にストレス状態が分かるわけではありません。

各務: 今あげていただいた課題点をまとめると、1つ目は使い方が分からないので活用できていないという点、2つ目は自分の感覚と実測値が違うというところに対する不信感だと思います。
もう少しこの2点についてお伺いできればと思います。1つ目の使い方ってなんだろうというところですが、この57問の問診の効果を最大化できるするにはどのような取り組み、あるいはマインドセットが必要なのでしょうか。

中井: やはりこのストレスチェックは一次予防を目的とした取り組みなので、まずはこの一次予防という目的、みなさんの健康を維持するためのものだというメッセージをしっかり伝えることですね。
結果がよかった人は、翌年のストレスチェックまでずっといい状態を維持するようにしましょうね、できればよりよい結果に進むようにしましょうね、という内容をしっかり教育していただく事が大切だと思います。
逆にもし高ストレス者になってしまったら、それはすぐに医師面接を受けるなどしてケアしないといけないというつもりで受けていただきたいと思います。
ただやはりこの57問で全てが分かるわけではないので、ストレスチェックの結果に関わらず、不安のある人は産業医の健康相談などを活用するよう促すことも重要になります。ストレスチェックの限界も適切に伝えつつ、一次予防が趣旨であることをしっかり伝えていただきたいですね。

各務: ダイエットしたい人が最初に体重計で現状を数字で把握してからダイエットの計画立てるように、メンタルヘルスにおいても、現在の状態をまず定量的に知ることで理想的な状態との差分を認識することが、健康なメンタルに近づくための第一歩になるということですね。

▶ストレスサイン、健康診断の結果と合わせて総合的に判断

各務: 2番目のストレスチェックの課題、自分の感覚値と実測値に差異があるという話に進みたいと思います。先ほどの、自分がしんどいなと思っていてもストレスチェックの結果は元気と出てしまった、あるいは元気だと思っていたのに高ストレス者と診断されてしまったなど、「適当なアンケートなんじゃないの?」という不信感を与えてしまうという点についてですが、どのように考えられていますか?

中井: 問診だけでストレスの全てが分かるわけではないので、あくまでこの中で分かる範囲での指標だということを理解していただくことは大切だと思います。このストレスチェックは、客観的な「データ」として結果が出てくるというのが最大のメリットであると思います。自分の気づかないストレスに気づくチャンスになるということです。ところが、その客観的な評価だけで全てが分かるわけではないのです。
厚生労働省のホームページにはストレスサインについて紹介されています。例えば、ストレスが溜まると肩こりになりやすい、お腹が痛くなりやすい、時々眠れなくなったり、などです。普段から自覚している自分の状態、ストレスサインと健康診断の結果など、組み合わせられる情報はどんどん組み合わせて、総合的に自分で自分の健康状態しっかり理解しておくということに繋げることが大事だと思います。


中井裕規|プロフィール
大学・大学院にて心理学を専攻。個人の内面の問題だけでなく、社会や環境を視野に入れたアプローチの重要性を感じ、専門学校にてソーシャルワークを学ぶ。社会福祉協議会、働く人のメンタルヘルスサポートを行なう企業(通称EAP)を経て、現在は大阪心理カウンセリング喜びを独立開業。「働きたい会社」と「働いてほしい人財」をつくるコンサルタントとして企業へのメンタルヘルス対策を実施。EAP社に所属する専門職への教育や、パーソナルカウンセラーなどとして直接支援にも積極的に活動。
【主な資格】精神保健福祉士、公認心理師、社会福祉士、認定心理士、産業カウンセラー、両立支援コーディネーター、健康経営アドバイザー

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