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[vlog]夏過ぎて秋来にけらし愛し香の

最近寒さで早朝に目が覚めることがある。まだ暗い、4時半とか。

本来目覚ましをセットしている6時半までしっかり二度寝し、1階に降りてもまだ寒い。
テレビをつけてニュースを眺めていると、「まだまだ残暑は続きますが…」的なことを言っている。嘘だぁ、もうこんなに涼しいのに。

朝が涼しくなると、妙にテンションが上がる。

そう、大好きな秋がやってくるからだ。

秋は1年の中で1番好きな季節だ。気候的に過ごしやすいのもあるけど、秋独特の涼やかな寂しさも実はちょっと好きだったりする。

最も、秋が好きな理由は、金木犀の香り。

向かいに住む祖父母の家の庭からは、毎年金木犀の香りが漂ってくる。休日に部屋の窓を開け放って読書をしていると、涼やかな風に乗った金色の香りが、前髪を静謐に揺らす。

高村光太郎著の『レモン哀歌』の「トパアズいろの香気」ならぬ、金木犀は「橙黄色の慈愛」だと形容したい。
優しくてどこか懐かしくて、それでいて冷たく心をすり抜け、寂しさをその軌跡に残している。親しみがあるような、掴みどころがないような。

純粋に、何故か人たらしみたいな香りだなと思い、思わず苦笑する。勝手に金木犀の香りを解釈すればするほど、その自由奔放さに惑わされ、魅せられていく。

今年はまだ、金木犀は咲いていないようだ。

あぁ、待ち遠しい。1年でたった数週間しか楽しむことができないあの香りが。

そういえば、香りといえば。

なんで香りって記憶に残るんだろう。

人生で初めて付き合った人の柔軟剤の香り。
廊下でたまたますれ違ったときに、自分の意思とは関係なく「あ、懐かしい」と反射的に思ってしまう。そういや付き合い始めたのも秋だったっけ。

数学を個別に教えてもらっているあの先生。
あの先生の柔軟剤の香りも、少し好きだったりする。
卒業後もふとあの香りが届くと、ある夏の終わりの朝の時間を思い出したりするのだろうか。

青箱の牛乳石鹸の香りも、懐かしさに浸れる香りの一つだ。
最近ひょんなことから牛乳石鹸を貰ったのだが、箱を開けると懐かしさで胸がいっぱいになった。当時、毎日嫌で嫌でしょうがなかった幼稚園の匂いがするからだ。
親と離れるのが堪らなく不安で、毎朝大泣きして困らせていた先生たちの、優しい匂いを思い出した。


香りはいとも簡単に、閉ざされていたはずの記憶の蓋を外してしまう。

これから自分は、金木犀に特別な思い出を込めるのだろうか。


そして巡り来る秋の中で記憶の蓋が外れたとき、それがどうか、慈愛に満ち溢れたものでありますように。



ご清覧ありがとうございました。
自販機のコンポタでした🌽

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