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【短編小説】好きになった日

終わりにしようと思った。何度も、何度も。でも本当に今日で終わりにする。「これで連絡は最後にします。今までありがとう。じゃあね。」短い文章なのに、打っては消してを繰り返し、気づけば1時間が経っていた。メッセージを送信して、右上の3本線からブロックをタップする。大袈裟なくらいため息をついた。それに続くように涙が頬をつたう。 大好きだった。顔も声も指もふわふわな髪の毛も、仕事ができるところもくしゃくしゃな顔で笑うのも煙草に火をつける仕草も、キスもセックスも。 職場では飄々と何で

    • 【短編小説】友だちじゃなくなる日

      先週の水曜日、木村から電話があった。仕事で疲れ、精神的にもまいっていたので電話に出るか迷った。だけど、誰かと普通に喋りたい気持ちもあった。何コール分かバイブ音を聞いたのちにスマホを手に取った。会話は俺の仕事の愚痴から始まったが、好きだったバンドが再結成する話へ移ると、そこからは出会ったころに戻ったような感覚になり、気づけば深い時間まで話していた。久々に笑った気がした。その流れで会って飲もうという話になり今日を迎える。知り合いに美味しいワインをもらったらしく、3年ぶりに木村の家

      • 【掌編小説】あの子とシャボン玉

        シャボン玉買ってきた、と彼女は言った。リアクションに困っている僕をよそに、彼女は家に上がるとそのままベランダへと早足で向かう。遅れて僕もベランダに出る。100均で買ったのだろうか、小さい水色のボトル。蓋から伸びる細長い輪っかにシャボン玉液を浸して息を吹きかける。微かに虹色を帯びる玉が風に乗って消えていく。なんでシャボン玉買ったの?という僕の問いに彼女はこう答えた。 「なんて事のない日常にファンタジー要素を足してあげてるんだよ。ファンタジーテロだね」 得意げにシャボン玉を作

        • 【嘘日記】元カノの同人誌でBL化されるらしい

          どんよりとした重たい雲。朝、カーテンを開けると一番に見えた景色。歳を重ねるごとに悪くなる寝起き。それに追い討ちをかける低気圧。Sexy Zoneの卒業式を見た翌日というのも重なって今日は何もしたくなかったが月初である。請求まわりの仕事をやらねばならん。なんで今どき社内の有線でしか入れない共有フォルダなんていう管理の仕方をしているのか。せめてテレワークにしたかった。 文句が頭の中をぐるぐると回りながら電車に揺られる1時間。ジャンプ+で今週号を読んでは眠気に襲われる。頭に入って

        【短編小説】好きになった日

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        • 小説
          5本
        • 嘘日記
          1本

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          【掌編小説】プロポーズ

          「結婚しよう」 リコはぺたりとリビングのフローリングに座り込んで、僕に背を向けたままそう言った。その言葉には力もなく感情も乗っていないように聞こえた。首は折れ曲がっていて、自分の両手を見つめているのだろうか。 「いいよ」 僕はリコを後ろから抱きしめて、そう返事をした。できるだけ優しく包み込む。力を入れすぎたら壊れてしまうほど、リコの身体は華奢で頼りない。触れた瞬間、リコは少しだけ体を震わせた。そして倒れ込むようにして寄りかかってくる。 「お母さん、リコは必ず幸せにしま

          【掌編小説】プロポーズ

          【短編小説】好きな人が下の名前で呼んでくれない

          大学のサークル仲間は「かな」という下の名前で呼ぶ人がほとんどだった。「ちゃん」付けの人や後輩だと「さん」付けされることもあったけど、ベースは「かな」だった。 だけど唯一私のことを「月原さん」と呼ぶ人がいた。 彼はクルクルの天パにメガネをかけた映画と音楽が好きな先輩だった。私は先輩のことを「優一さん」と呼んでいたし、割と仲も良くてほとんどタメ口で喋っていた。飲み会の席では一定のペースを保って淡々と酒を飲み、大きな声は出さずに、でも楽しそうに微笑む横顔を見るのが好きだった。い

          【短編小説】好きな人が下の名前で呼んでくれない