小説、死んでもいいわ
夜。中秋。喫煙所。
隣にいるのは前髪を目元まで伸ばした男。鳴かず飛ばずのシンガーソングライターであり、私の恋人。稼ぎなんてほとんどないから、私が養ってあげている。家は離れている。殴られてはない。
煙草を吸うのも彼だけで別に話すこともなかったので空を見上げると、空気が澄んでいて月がよく見えた。
「死んでもいいわ」
口が滑った。
「え、ダメだよ」
と、男。
そうだ。彼は学がないのだ。忘れていた。
もしもう少し教養があれば、夏目漱石と双葉亭四迷でも思い出してくれたろうに。
「わか