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皮膚移植における日本スキンバンクネットワークの取り組み #1

2021年1月からiryoo.comをご利用いただいている「一般社団法人日本スキンバンクネットワーク」の理事/コーディネーター 青木大様にお話を伺いました。青木様から皮膚移植における「日本スキンバンクネットワーク」の取り組みについて教えていただきました。

一般社団法人日本スキンバンクネットワーク
- 代表理事 佐々木 淳一 先生(慶應義塾大学医学部 救急医学教室 教授)
- 2006年に地域のスキンバンクが統合され特定非営利活動法人として設立。
- 2009年に一般社団法人として改組。全国80施設の医療機関が法人管理として加盟し、広範囲熱傷の患者救命のために活動。



スキンバンクとは?


---- まず、「日本スキンバンクネットワーク」の活動について教えていただけますでしょうか。

 
「スキンバンク」という言葉は聞き慣れない方が多いかもしれませんが、移植医療に関わる機関の一つです。移植医療は大きく「臓器移植」と「組織移植」に分かれます。臓器移植は心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、眼球などが対象です。一方、皮膚は組織移植に該当します。この他、骨や心臓弁、血管、膵島、羊膜が組織移植の対象となります。こうした中で、「皮膚移植」に関する皮膚の提供をスキンバンクが担当しています。臓器移植はメディアで取り上げられることが多いため、認知度が高まっていますが、組織移植についてはまだまだ認知度が低く、認知度の向上が私たちの課題でもあります。

スキンバンクでは、お亡くなりになった方やそのご家族から皮膚提供の希望を受けた場合、採取から保存、管理までを行い、熱傷の患者さまを治療する医療機関に届ける活動を行っています。

---- 「熱傷の患者」の定義について教えてください。

 
全身に大ヤケドを負われた患者さまが該当します。大ヤケドを負う原因は家屋等の「火災」、工場等の「爆発事故」、「原子力関係の被ばく」などがあります。その中でも全身に広範囲のヤケドを負われた方がスキンバンクの対象の患者さまに該当します。

スキンバンクで管理する皮膚を適用できる患者さまの基準は一般社団法人日本熱傷学会が規定しています。この基準に準じて、日本全国の医療機関の内、各都道府県内で大ヤケドを扱う事ができる80施設の医療機関が施設会員としてスキンバンクに加入しています。このように日本熱傷学会では基準やガイドラインを定めているのに対し、スキンバンクは提供される方のご家族の対応、採取・保存・供給までの現場対応を行っています。

活動内容と体制


---- 現場対応における役割について詳しく教えてもらえますでしょうか。

 
大きな役割として2つあります。1つはドナーへの対応、つまり亡くなった方から皮膚をご提供いただく場面での対応です。もう1つは、レシピエント、すなわち大ヤケドを負い、皮膚移植を必要とする患者さまへの対応です。治療は全国80施設の医療機関の医師ですが、大ヤケドの患者さまが搬送され、皮膚移植が必要と判断されるとスキンバンクに連絡が入り、バンクで凍結保存中の皮膚を専用の搬送用タンク(ドライシッパー)を使って搬送します。

ドライシッパー開封の様子

---- 施設会員に搬送される全身大ヤケドを負った患者さまが皮膚移植対象のレシピエントに該当する訳ですね。一方、ドナー側からの意思表示はどのようなルートでスキンバンクさまに連絡が入るのでしょうか?

 
臓器提供を希望する方が入院している医療機関から「公益社団法人日本臓器移植ネットワーク(JOT)」に連絡が入り、JOTからスキンバンクに連絡が入るケースが一般的です。多くの方が健康保険証や自動車運転免許証、マイナンバーカードの裏面に記載の「臓器提供意思表示欄」を目にされたことがあるのではないでしょうか? 残念ながら、皮膚の項目はないのですが、「特記欄」や「その他」の項目に「皮膚(ひふ・ヒフ)」と記入いただくことで「皮膚のご提供意思」を示すことが可能です。生前の意思表示のほか、組織の提供は、臓器提供と同様にご家族の承諾があればご提供頂くことができます。

以前はJOT経由での意思表示の連絡が8~9割を占めていましたが、最近は医療機関から直接、もしくは、全国の臓器移植コーディネーターから連絡いただくケースが増えています。各都道府県には最低1人以上、JOTから正式に委嘱状を受けた臓器移植コーディネーターが自治体や医療機関にいます。また、医療機関の中にも院内コーディネーターが増えており、彼らからの連絡も増えています。

---- スキンバンクさまの広報活動の賜物ですね。一方で、臓器移植コーディネーターのように組織移植コーディネーターを各都道府県に配置することはないのでしょうか?

 
JOTは全ての臓器をコーディネートできる国内唯一のあっせん機関であり、規模も相応に大きい機関です。組織移植の分野では、組織ごとに「組織バンク」を設立しており、JOTに相当するような公益社団法人はありませんが、現場でのドナー情報などを集約する窓口として東日本・西日本に一か所ずつ「組織移植ネットワーク」を配置しています。

東日本組織移植ネットワークの事務局は東京大学医学部附属病院内に、西日本の事務局は国立循環器病研究センター内に設置されています。JOTからの連絡窓口も両ネットワークが連絡窓口を担っており、皮膚についてはスキンバンクが担当している訳です。

皮膚以外では、「心臓弁・血管」、「膵島」、「骨」に分かれており、例えば、東日本の「心臓弁・血管」は東京大学医学部附属病院の組織バンクが担当しています。「骨」の場合、北里大学病院骨バンクです。

---- 皮膚以外も分担されているのですね。ところで、このインタビューは当初の予定日から延期となりましたが、青木様の方にドナーもしくはレシピエントの対応が入られたのでしょうか?

 
ドナー情報対応でした。ある医療機関の院内コーディネーターから「皮膚提供ご希望の患者さまがいらっしゃる」旨の連絡が入り、緊急対応を行いました。

院内コーディネーターの場合、ある程度の医学的スクリーニングの後、ご家族への説明を経て意思確認を行っていただきます。その際は心臓停止後から数時間経過後にお電話をもらったのですが、死亡されてから12時間以内に、施設に赴き、皮膚を採取するという時間の制約があります。時間が超過すると細胞の死滅や感染が増加し、移植不可となるからです。ドナー死亡後、院内コーディネーターが調整中に、我々はいつでも出動できるよう待機します。当初のインタビュー予定時刻はまさにその時間帯でした。

ドナー対応は私を含め2名で対応しています。そのため、ドナー提供元の地域を関東エリアに限定しています。ドナー対応出動時においては、大きなスーツケース×2台半程度の機材を持ち込む必要があります。皮膚採取手術に用いる機材や消耗品で、採皮セットと呼んでいます。滅菌の機材もあるため、常にメンテナンスを行い、24時間365日、いつでも出動可能な体制を敷いています。

---- たったのお二人で24時間365日いつでも出動できるように準備されているのですか! となると、お二人は移動制限を設けていらっしゃるのでしょうか?

 
はい、その通りです。海外渡航は勿論の事、国内でも遠方に旅行に行くことはありません。規則ではありませんが、自主規制として関東圏から出ることはないですね。もう一人いればローテーションを組む事もできると思いますが、現状では致し方ないと思っています。

私たち二人はスキンバンクの移植コーディネーター職として専念しており、事務所で毎日デスクワークしている訳ではありません。テクニシャン業務と呼ばれるのですが、提供いただいた皮膚をトリミングし、たたみ、凍結保存する作業も行っています。この作業は現在、東京医科大学八王子医療センターの一室をお借りし、行っています。我々はラボと呼んでいまして、レシピエント側の依頼が入ると、ラボで皮膚をパッキングし、発送する作業を行います。

高い技術で提供された皮膚を扱う

次回のインタビューではiryoo.comのご採用に至った経緯や、良かった点・課題について教えてください。

はい、わかりました。


  • 日本スキンバンクネットワークについて


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