その者ここに在らず
気づけばお盆もとうに過ぎまして、涼しい日もチラホラと、夏が終わっていきますね。ご先祖様もサマーバケーションを終え、ナスに引かれて今は現世に在らずでしょうか。
そういった霊とはまた別の、この世に存在しない人たちについての雑談。
神隠しの少女
1831 年、イングランドはワイト島に "ルーシー・ライトフット" という美しい少女がおりました。彼女は地元の教会内に安置された、十字軍の騎士 "エドワード・エスター" の墓に足繁く通っていたそうです。
在りし日の彼を象った彫刻が施されたエドワードの墓。なぜ心惹かれたのかルーシー自身にもわかりませんでしたが、並々ならない想いで彼の元を訪れていました。
1831 年 6 月 13 日、空には雷雲が立ち込め、鳥や獣の姿も消えた皆既日食の不気味な日。そんな日もルーシーは変わらず教会に出向きます。彼女が教会にいる間、外では激しい嵐が吹き荒れていました。
嵐が去ったあと近隣の住民たちは、教会に繋がれた彼女の馬を見つけます。住民は教会で彼女を探しますが、エドワードの彫刻の剣に埋め込まれた "ロードストーン" と共に彼女は忽然と姿を消し、その後帰ってくることはなかったそうです。
さて、それからしばらく経ったある日、とある牧師が十字軍に関する書物を読んでいたところ、こんな記述が見つかります。
そして、彼の持つ剣の柄にはルーシーと共に姿を消した、ロードストーンが埋め込まれていたのだとか。
……という、おとぎ話のような話ですが、こちら完全な創作。エヴァンス牧師によるフィクションなのだそうです。なーんだ。
そもそもエヴァンス牧師は、小説としてこの話を書いたそうですが、どこでどう間違ったのか、実際に起きた怪奇現象として雑誌に取り上げられ、都市伝説的に広まってしまったのだそうです。
詩人アーン・マリー
さて、ルーシー・ライトフットの件は不慮の事故でしたが、今度は明確に誰かを騙してやろうとでっち上げられた人物。名を "アーン・マリー" といいます。
1943 年のオーストラリアに、ジェームズ・マッコーリーとハロルド・スチュワートという二人の詩人がいました。彼らはその頃もてはやされていた、モダニズム詩や、それを取り扱った文芸誌を快く思っておらず、ある企みをします。
彼らはモダニズム詩の形態を模した、意味のない言葉のパッチワークで構成された詩を何篇も作りました。そして、病気のため 25 歳でこの世を去った架空の人物 "アーン・マリー" をでっち上げ、彼の姉 "エセル・マリー" を装い、文芸誌 Angry Penguins の創始者である "マックス・ハリス" に、弟が遺した詩の評価をして欲しいと連絡したのだそう。
するとハリスとその仲間達は、まんまとその詩を高く評価し、誌面で特集まで組んでしまったのだそう。その後、それらの詩は架空の詩人による、意味のない文章であることが公になり、雑誌の権威は失墜。終いには廃刊に追い込まれてしまったそうです。
しかし、この架空人物アーン・マリーによる意味のない詩。実にシュルレアリスム的である!と、後の世では評価されてしまったそう。芸術はよくわかりませんね。
This person dose not exist
さて、突然ですが、この人に見覚えはありますか?
見たことがない?ではこちらの方は?
どうでしょう、見覚えがありますか?
きっとないことでしょう。あったとしたら、それは勘違いです。
なぜかといえばこの写真、 AI が作ったこの世に存在しない人物の顔写真だからです。ちょっと回りくどかったですね。
こちらのサイト "This Person Dose Not Exist" では、アクセスすると AI が生成した、実在しない人物の顔写真が表示されます。アクセスするたび顔は変わり、おそらく全く同じ顔は二度と出ないはず。デジタル一期一会。
しかしなんとも高クオリティ。本物の写真と区別が付きませんね。見破るコツは瞳だそうですが……僕にはさっぱり!すごい時代になりました。
最近は Midjourney や Stable Diffusion なんかが話題ですね。得意分野が違いますが、あちらの生み出す画像群も素晴らしい。
おわりに
ルーシー・ライトフットもアーン・マリーも、途中から作者の意図しない形で一人歩きをはじめました。今はペンがコンピューターに変わり、 AI という道具を使って、いろいろな方が架空の者たちを生み出していますね。
難しいことはわかりませんが、なんだかワクワクしてしまう今日このごろです!
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