ユリのこと

ユリのことを考える時、私はいつも悪人になってしまう。

ユリは高校時代を共にした。ハッとするほど眼の大きな美少女だった。

ユリと私の共通点は同じバンドが好きだったことだけ。あとはなんにも。気性の荒い彼女と話す時は、いつもヒリヒリとした緊張感があった。バンドの話題を沢山用意して、彼女を喜ばせようと必死だった。ユリの母はおそらく夜の仕事をしていて、父親はいなかった。ユリ自身も、似たような仕事に触れたことを仄かしていたが、当時高校生だったので詳しいことはわからない。私はユリの情熱的な瞳になりたくて、必死で真似をしていた。実は思春期のこういった真似事は効果があって、私の寝ぼけたような眼に少し輝きが出たのはこの頃からだった。だから、ユリにはとても感謝している。もう伝えられないけれど。

話を戻して、ある日、ユリはいつか一緒にライブに行こうと私に持ちかけた。私は夢見心地で約束した。

でも高校生の私にとって、束縛の強い母親を説得して夜間外出するのは恐怖だった。半年ほど経って、仕方なく、ユリにライブに行くことが厳しいと告げた。さあ、ユリを怒らせてしまった。

言っていることが違うんだけど?と棘のある返事とともに、彼女はブログに迷惑行為をされたと書き込んだ。それを見て食事も取れなくなったのを覚えている。

彼女は気性こそ荒いが私の行為はさほど気に留めなかったらしく、卒業以降は多少関係を持ち直したが、やがて会わなくなった。2人で追いかけたバンドは解散し、彼女の推していたメンバーは自らこの世を去った。

彼女は相変わらず烈しく誰かを愛しては衝突し、私とは違う人生を送っている。そして先日烈しく挫折し、消息を絶った。

私は彼女の強烈さを羨んでいたが、いつしか見下すようになってしまった気がして、あの頃と変わらず胸がヒリヒリとする。


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