夢見る乙女だった、ナツのこと

先日、ナツが夢に出てきたのでナツとの思い出を書く。

ナツは中学時代に出会った。初対面の記憶はないがクラスや部活などの接点が全くないので、多分友達の友達といった出会い方をしたのかもしれない。切れ長の鋭い目元とハスキーな低い声が特徴的な少女だった。

それまで比較的内気な人達と付き合いがあったが、ナツは少し違った。だからといって今で言う「陽キャラ」でもなかった。少し冷たい言い方をしてしまうと、明るい世界に憧れて必死で努力するが、幼さ故に自分に合った努力の方向が見出せず、なかなか陽の目を見ることができない、といった雰囲気だった。でも本人は至ってポジティブで、我が道を突き進んでいた。

当時自覚はないものの既に親との関係が壊れ始めていて、クラスにも馴染めず勉強する気も湧かず腐り切っていた私は、彼女の明るさにあてられ、彼女の犬として隣にいることに快感を得たのだった。

私は彼女の犬になる。奴隷ではない。菓子パンを買いに行かせるわけでもなく、お金をたかるわけでもない。彼女が私にしてくれたのは、しつけだった。

私は通学時、俯いて歩いては彼女に小突かれ、内股で歩いてはスクールバッグでどやされた。小学校時代に親にめちゃくちゃにされた自己肯定感を、彼女は一生懸命取り戻そうとしてくれた。休憩時間には好きな男性アイドルのことと、それに憧れて自分もアイドルを目指すのだという意気込みについて語り合った。オーディションも受けたと言っていたが、良い結果を聞く日はなかった。

中高一貫校だったので高校進学後も一緒だった。そこで、演劇部の裏方をする事になる。本番、ナツのミスで衣装替えが遅れる。満足のいく結果にならなかったが、ナツは参加することに意義があるというようなポジティブな思考を展開し、完璧主義だった私は呆れてしまったのを覚えている。この辺りで私はナツの犬になる事を辞め、ただの友達になる。思春期の友情は、なんて奔放で流動的なのだろう。

高校2年生になり、私はようやくクラスに居場所を見つけた。結局1度もクラスが一緒にならなかったナツとは少し距離が離れ、気まずくなったりしながらも、卒業まで友達でいた。

卒業後、社会人になったタイミングでナツと食事に行った。ナツはアイドルを目指す事を何処かで辞めて、首都圏で働く公務員になっていた。隣の部署の同僚に想いを寄せ、どうアプローチすれば良いか悩んでいる、いじらしい乙女だった。

そう、彼女はいつでも夢見る乙女であり続けた。連絡を取らなくなり久しいけれど、またナツと夢の話をしたいなと時々思う。

ちなみに冒頭の話題に戻るが、私はナツが煌びやかな衣装を纏ったアイドルになった夢を見たのだった。


ナツの夢


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?