モチちゃんのこと

モチちゃんは、中学生の時に一緒に登校していた小学生だ。無防備に帽子の裏に付いている名札で、彼女の名前を知った。

中学の頃、友達と駅の階段の踊り場で待ち合わせして、連れ立って登校するのが日課だった。そこを毎日、お母さんに手を引かれて通り過ぎていくのがモチちゃんとの出会いだった。

私達は中学生特有の奔放さで、モチちゃんに毎朝手を振った。モチちゃんは振り返す時もあったし、いそいそと母に手を引かれて行ったこともあった。

ある日、モチちゃんは1人で何時もの場所に現れた。私達は何時ものように手を振った。すると、モチちゃんはまっすぐ私のところに来たんだった。

「お姉ちゃん、一緒に行こう!」

そこからモチちゃんと私達の登校が始まった。ちょっと私達の立場が違えば今の都会で問題になりそうな、奇妙な関係だけど。セーラー服は人畜無害な肩書きとして随分強いものだ。

モチちゃんは大抵、ぶら下がるように私の腕にまとわりついて登校した。

「お姉ちゃんの腕、すべすべで綺麗ね!」

とよく言ってくれた。もちろん彼女のしなやかで無垢な腕の方が何倍も綺麗だけど。

モチちゃんとは一緒に色々な話をしたのだけど、よく覚えていない。図工の展覧会の話だったり、初恋の男の子の話だったりしたと思う。

ある日、モチちゃんはクラスメイトに声をかけられ、少しぶっきらぼうに返事をしていた。何時もの可憐な調子とは、少し違った。

モチちゃんはクラスに馴染めていなかったのかもしれない。それでお母さんと来ていたのか、あるいは私達が何時も一緒に居たからなのか。もし、後者だったら、と思うと今でも少し胸が苦しい。

また別の朝、モチちゃんは昔のようにお母さんに手を引かれて来た。そして、お母さんも私達に近づいてきたのだった。ついに怒られる時が来たか。私は身をすくめた。

「いつも、娘をありがとうございます。」

お母さんは、私に丁寧に頭を下げた。

私はびっくりして、曖昧に返事をした、と思う。

モチちゃんといつから一緒に通わなくなったのかは、よく覚えていない。私達の卒業が早かったのか、モチちゃんが離れたのか。どちらにせよ自然消滅だったと思う。

モチちゃんは今、きっと成人して素敵な女性になっていると思う。どこかであの無邪気に笑うモチちゃんがいるのだなと、時々考える。



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