JFKに選ばれた女子大生の数奇な人生 - Mimi Alford "Once upon a Secret"

かつて学生インターンとしてホワイトハウスに入り、JFKの寵愛を受けたある女性の手記。
「アメリカ人のメモワール面白過ぎ…」と驚愕した1冊。

彼女は、自分が歴史の一部をなしているとは到底思わない、注釈の注釈でしかない、と言っているけれど、JFKと、当時のジョージタウンの空気を知るのに彼女の証言はとても価値がある。
何しろ、彼女自身が書いているように、「JFKは人間関係を厳密に分けていた。彼の全てを把握している人はいなかった」のだから。
キューバ危機の夜とか、彼の側近たちのあり方などはとてもスリリング。
ミミさんは一度もジャッキーに会ったことがない、というのもすごい話だ。
(彼女たちは同窓生という共通点があった)

ミミさんがJFKを受け入れたときの気持ちは素直で、とても共感できる。
ただ、彼がいかに女性を人間と思っていなかったかがありありと分かる箇所がいくつかあり、(JFKは一切避妊をせず、妊娠の可能性があったときはすぐに当時違法の堕胎の院が手配されたとか、目の前で側近に口で奉仕するように指示されたとか...)そりゃ天罰もくだるわ、逝ってヨシと思ってしまった。

神さまはミミさんには平安を与えてくれたが、そこまでの道のりがいかに苦しかったか、彼女は率直に書いている。
墓まで持って行かれるはずだった秘密は、結婚式の直前、JFKの暗殺に動揺して夫に知られてしまう。
あまりにドラマチックすぎない?こんなことあり得る?

はじめ私は信じなかった。そのニュースはあまりにも不意打ちだった。ついさっき、彼は撃たれたが一命はとりとめ、病院に向かっていると報道されたばかりではないか。悲しみ、絶望をも超えたアナウンサーの口調で分かった。これは事実なのだ。これが皆が尋ね合う「ケネディ大統領の死をどこで知った?」への私自身の答えである。私は婚約者と共に車内にいて、無感覚におそわれた、それはまるで想像もしなかったことだった、と。

頭の中には最後に大統領に会ったときのイメージが渦巻いていた。カーライルで、たった7日前のことだ。彼は私を抱きしめ、テキサスから戻ったら電話する、と言った。トニーのほうを向くと、そこには見知らぬ人がいたー私が決してこの思い、記憶を共有することのできない人間だ。私はトニーに私たちの関係について打ち明けることはないだろう。彼は大統領に会ったことすらないのだ。トニーと私には、大統領の死を一緒に嘆いたり語ったりできるような共通の思い出が何ひとつないのだった。ふと私は、これから結婚する男がはるか遠くにいるように感じた。

Mimi Alford, Once upon a Secret 拙訳

<中略、こんな状況でふたりはトニーの実家へ。義理の家族と過ごし、テレビで大統領暗殺の瞬間を見ることに...>

私は起き上がり、トニーとテレビの間に立ったのを覚えている。私はテレビのモニターとトニーを交互に見やりながら泣いていた。死んだ大統領と私の婚約者のイメージが現れたり消えたりした。
おびただしい涙は止まることなく、私はほとんど呻くようにすすり泣いた。トニーはいぶかしがった。彼の知っている私は、ホワイトハウスの広報室でふた夏を過ごしただけの人間だ。その人間の反応としては度を超えているのではないか。
「大丈夫かい?」彼は言った。
私はかぶりを振った。
「一体どうしたっていうんだ?」
私は答えられなかった。私の視線は、テニス観戦をしている人のように、テレビとトニーの間を忙しなくさまよった。自分がどこにいるのか分からなくなった。けれど、トニーはその姿から私が取り乱している理由を悟っていた。
<中略>
彼はすべてを知っている、と私は思った。私は清くあらねばならないし、彼に対して誠実であるべきだ。私は混乱していたが、確信した。だが、自分が彼に打ち明ける、そのシーンが全く想像できないのだった。
「話があるの」私は言った。
「なんだい?」
「大統領が…」
「だからなんだい?」彼は遮った。
「あなたの考えている以上に…」
「えっ?」
「私はあなたの思っているように無垢ではないの」
「えっ?」
「学校も理由なく止めたんじゃないわ」
「なんだって?」
「最後まで話をさせて」
私は泣くのを止め、考えをまとめようとした。
「私はもっとずっと彼と親しかった…」
「話が見えないんだが—ケネディ大統領と寝たのか?」
彼はどうして私の苦悩を不貞に飛躍させられたのだろうか。私はうなずいてイエスと言った。大声で叫ばなくていいのを有り難く思った。
すると、トニーのほうは厳しい取り調べのような口調に変わった。
「いつからだよ?」
「去年よ」
「僕に会った後も?」
私はうなずいた。
「婚約した後も?」
私は再びうなずいた。
「何度あったんだ?」
「覚えてない。たくさん」
沈黙があった。トニーは、尋ねれば尋ねるほど傷つくことに気づいたのだ。自己防衛の本能によって彼は詰問を止め、私から離れてテレビを見つめた。

Mimi Alford, Once upon a Secret 拙訳

ミミさんだけでなく、夫のトミー氏もどれだけつらかったことか。
当時、JFKを前に劣等感を感じない男なんていなかっただろう。しかもその時代に、妻が自分と同時期に別の関係ももっていた、というのは。
よく26年間も我慢したよ、トミー氏。

ミミさんは老齢になってやっと与えられた愛し合える伴侶とともにアーリントンを訪れ、JFKの墓石に告げる。
「ありがとう」と。

有名人も含めおびただしい数のガールフレンドがいたJFKだけれど、それでもミミさんは「選ばれた」のだと思う。

それにしても、これほどうまく遊び散らした大統領はちょっといないよね。

邦訳はこちら。邦題ヒドイ。
しかもどっちかって言うと「愛の奴隷」じゃなくて「性の奴隷」のほうが内容に近い。逆に原題の美しすぎることよ。


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