同棲解消・風俗・殴打
-2024/01/27
同じ家で過ごして、同じベッドで眠り、同じごはんを食べる。寝食を共にする。1ヶ月もすれば他人になる人間と。当たり前に配慮してくれてた部分がスコンと抜け落ちた、恋人だった人間と。
私と別れてから、あの人が誰かの為に使った真夜中は実に数回。朝日を背負って帰ってきたコートは、BURBERRYのHER EAU DE TOILETTEのにおい。それと、もう冬も終わるのに、ベットリとへばりついた甘すぎるバニラ。が、かすかに。センスねぇな。朝帰りのときは決まって香水のにおいが混じってるなんて、ベタすぎるしダサすぎる。やることなすこと全部ダサい。私の横にそろそろと滑り込み、布団をかぶる姿。寝ボケまなこで睨みつける。
2024/01/04
酩酊した私が風俗で呼びつけた女の子にコンビニからおろした4万円を突き渡したのは、夜中の2時過ぎ頃。2時間で3万9000円。相場がわからないけど、多分きっとお買い得。1000円のおつりはあなたへあげるよって言ったら、彼女はその金で、私と自分にハイボールを2本買った。
一緒に生きるために選んだ部屋は今、中身を失って空っぽだ。コンビニに風俗の女の子といる私。どこにいるか知ったこっちゃないあの人。どうせバニラくさい女といるあの人。私じゃない誰かに真夜中を使う、あの人。
ねぇ私いまから、風俗で呼んだ女の子とあの部屋に帰るね。私、今夜、あなたが帰ってこないあの部屋で、安心を買うね。嫌なことしてないかな、傷つけてないかな、ブスじゃないかな、太ってないかなって、思わなくていいように、泣かなくていいように、惨めにならないように。安心を買うね。買うからね。あなたにグズグズにされたあの部屋で!
どうかどうか。私の耳たぶを他人になぞらせたベッドで、私が他人の指を口に含んだセミダブルで、ふやふやのほっぺを膨らませていつも通りスヤスヤ眠ってくれますように。可愛い八重歯を覗かせて、無防備に眠ってくれますように。それが私の精一杯。丁寧な愛の最後。
2024/02/××
なんとなくわかったつもりでいた。不意にくる連絡でわかったつもりでいた。私たちがどうなるか、わかったつもりでいた。絵やらポスターやらをごちゃごちゃと貼り付けた新居の扉を開けて、『ここですよ』って。私は、湿度を含んだ柔らかい本当の意味では私を受け入れやしないあの声が好きだ。喉奥から紡ぎ出され、たゆたう声でラッピングされた言葉は、私をシーツに沈ませたりはたまた宙に浮き上がらせたりするけれど、その声は一体今まで誰に何を伝えてきたっていうんだろう。
ブリーチを繰り返してすっかり痛んだ私の髪は光に透けて、現実味がないほど長く伸びた腕に影を落とす。思わず指でなぞった。ふとベッドの下に降りて床から腕を眺める。そうするべきだ、それが自然で、間違いない。指の感触を知るのか、腕の骨の形を知るのか。私にはわからない。私の太ももに出来るであろう青あざが、いつまで残ってくれるのか。私にはわからない。
絶え間なく降り注ぐ拳と平手は意外と渇いた音をたてて私の脳みそを揺らし、目の端から溢れ出た液体は私のマスカラを汚らしくグチャグチャに落とす。うわごとのように謝罪を繰り返して懇願する。震えていた。私は震えていた。上から見下ろして、なじって、なぶって、泣かせてくれる。簡単に狂う自分の身体と精神に辟易していた私の、たったひとつの蜘蛛の糸。四角い部屋がまぁるくなり、私たちを閉じ込めた。
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