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セルジュ・ゲンズブールとフレンチポップの名曲たち

先日、ジェーン・バーキンが76歳で亡くなった。エルメスの高級バッグ「バーキン」の由来として有名な彼女だが、私にはセルジュ・ゲンズブールのパートナーとしての彼女の印象が強い。

ここ数年で、アンナ・カリーナ、ジェーン・バーキン、フランス・ギャル、ジュリエット・グレコ、そしてジャン・リュック・ゴダールと、1960年代のフランスを象徴する存在がどんどん亡くなっていく。それは仕方ないことなのかもしれないけど、とても寂しい。

今日は、上にあげた人物全てと関わりがあった稀代の音楽家、セルジュ・ゲンズブールの名曲を紹介したいと思う。

セルジュ・ゲンスブール(Serge Gainsbourg [sɛʁʒ ɡɛ̃sbuʁ]、1928年4月2日 - 1991年3月2日)は、フランスの作曲家、作詞家、歌手、映画監督、俳優。

Wikipediaより

リラの門の切符切り(Le poinçonneur des Lilas)

1958年リリース。ゲンズブールの歌手としてのデビュー曲。自動改札機が普通の今では珍しくなった「切符を切る改札係」の歌。

「リラ」というのはパリに実在する地下鉄の駅で、主人公は切符に「petits trous(小さい穴)」を開け続ける退屈な仕事をしている。永遠に続く単純な仕事に追い詰められた彼は最後には銃で自分を撃ち抜き、最終的に「grand trou(大きい穴=墓)」に入ることになる…という身もふたもない話。

追い立てるように繰り返される「Des petits trous, Des petits trous, Des petits trous…」が追い込まれた主人公の心情を表している。

ラ・ジャバネーズ(La Javanaise)

1963年リリース。私がゲンズブールの曲の中で一番好きな曲だ。女優ジュリエット・グレコに捧げたラブソングで、当時グレコ版とゲンズブール版が同時期に発売された。

ゲンズブールの歌詞は二重三重に意味がかかっているので、フランス語に精通した人でないと意味を解釈するのが難しいらしい。ということで私も全然よくわかっていないのだが、Javaというのは20世紀初頭にフランスで流行した体を密着させて踊るダンスのこと。
「Javanaiseを踊っている間、僕たちは愛し合っていた、愛のない人生に生きる価値はない」という歌詞と曲調が猛烈に切ない。

タバコを燻らせながら節目がちに失恋の痛手について歌うゲンズブールを見てると、「ああそりゃモテるわ…」となること間違いなし。とりあえず聴いてみてほしい。

ベイビーポップ(Baby Pop)

1966年リリース。ゲンズブールによるフランス・ギャルいじめ(?)の曲のひとつ。

1960年代、いわゆる「フレンチ・ロリータ」と呼ばれた女優や歌手たちはみんな、ロリータ(少女性がある)なんだけど官能的だった。「BB(べべ・赤ちゃん)」のニックネームで愛されたブリジット・バルドーも、映画では豊満な体を惜しげもなく披露している。

そんな中で、フランス・ギャルはとても純情でかわいかった。穢れを知らない、音楽家の父を持つ良家の箱入り娘をちょっと茶化したかったのか、それとも戦略的にやっているのかはわからないが、結構意地の悪い歌詞を歌わせている。

「夢見るシャンソン人形(Poupée de cire, poupée de son)」では、「私はただの操り人形」と、「Teenie Weenie Boppie」では「LSD乱用で死んじゃった〜」と歌わせ、極め付けは「アニーとボンボン(Les sucettes)」で性的ジョークを含んだ歌詞(ググってね)を歌わせてフランスギャルを人間不信にしたり、やりたい放題だった。でも悔しいけど、曲は良いのだ。ゲンズブールだもの。

そんな中で、私が好きなのが冒頭に紹介したBaby Pop。「少しのお金を稼ぐためにくたくたになるまで働いて、自分の意志に反して結婚する君。結婚式の夜に後悔しても遅い」みたいな歌詞。この曲は高校生の時に手に入れたフランスギャルのレコードの中でお気に入りだったのだが、もっとファンシーな歌詞だと思っていた。

ちなみにゲンズブールとフランス・ギャルの関係をデフォルメして描いているのが伝記映画「ゲンズブールと女たち(Gainsbourg, vie héroïque)」だ。
「うちの娘のおかげで金持ちになれるぞ!」って親父のセリフもどうかと思う。

太陽の真下で(Sous le soleil exactement)

1967年リリース。アンナ・カリーナの主演映画「ANNA」の挿入歌でもある。夢見心地という言葉がぴったりのぼんやりとしたアンナ・カリーナが、「太陽の真下がどこにあったか思い出せない」という、同じくぼんやりした歌詞を歌っている。

ゲンズブールには珍しく普通に綺麗な曲だな〜と思っていたら、彼にありがちなちょっとアレな隠喩もきっちり含まれている模様。気になる人はググってください。

アンナカリーナについて語った記事はこちら▼

エリザ(Elisa)

1969年リリース。当時恋愛関係にあったジェーン・バーキンとの関係を歌ったとされている曲。

リリース当時、ゲンズブールは41歳、バーキンは23歳。
かわいいかわいいバーキンを横に従えて「僕は40代、君は20代、そんなこと気にしないよ」と歌うゲンズブールを見てるとごちそうさまです〜!という気分になる。笑

ちなみに彼はこの年、過去に元カノ(ていうか不倫相手)ブリジットバルドーと収録したセクシーなデュエット曲「Je t'aime... moi non plus」を、バーキンと新たに収録し発売している。どういうメンタルなの!?

最後の曲

数々の名曲を輩出したゲンズブールだが、長年の喫煙とアルコール中毒は次第に体を蝕んでいく。心筋梗塞で倒れた後も酒とタバコを止めることはなく、酔っ払ってテレビに出演する始末。家族にそんな人間がいたら全力で止めるが、なんかそれもゲンズブールらしいな、と思う。おそらく誰の忠告も聞かなかったのだろう。

動画は、フランスの音楽賞を受賞した時のもの。出席者が名曲「La Javanaise」を代わるがわる歌っていく名シーンだが、男性歌手のターンときはつまらそうな顔をしていたのに、ヴァネッサ・パラディ(超かわいい)が歌い出した途端に彼女を抱き寄せて、デレデレするのがいかにもゲンズブールでとても良い。彼はこの放送の翌年、1991年に自宅で亡くなっているのが発見された。享年62歳。

この記事を書いている前日、2023年9月20日にセルジュ・ゲンズブール美術館がオープンしたらしい。場所はパリ7区の彼が住んでいた家。機会があればぜひ行ってみたいと思う。

セルジュ・ゲンズブールの家 / Appartement de Serge Gainsbourg
住所:5bis Rue de Verneuil 7e Paris
最寄メトロ:Rue du Bac(リュー・デュ・バック)、Saint-Germain-des-Pres(サン・ジェルマン・デ・プレ)、Musee d'Orsay(ミュゼ・ドルセー/RER)
エリア:パリ7区

https://paris-rama.com/paris_spot/075.htm


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