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無間地獄<巨大な脳みその登場>

どのくらい落ちただろうか。そんなことを考えている余裕がないところから、亮はさらに気持ちを煮詰めた。醜聞をさらさないために亮は落ちることに集中していった。その時の流れに考えを集中させた。どれくらい落ちていくか、どれほどまでに落ちていったか、時間の流れのない中でただただ時間の流れを数えた。変わらず醜聞は亮を襲った。それでも、時間の流れに集中すれば醜聞はいくばかりか和らぐ気がした。そう、そんな気がしただけでそれは本来、現実的に、また他人の目を通せばどう映っているかはわからない。されど、亮がそう感じていた。最初のころ、亮はそれを納得しなかった。客観的にどう落ちていっているか、またその痛みというものが、どの程度のものなのか、それをしっかりと客観的に把握したかった。されど繰り返される目をえぐられる中で、その客観的視点がまるで意味をなさないことを感じていた。何を意味するか、それはわかっている。そう、わかっている。

ーーー俺の苦しみだ。俺に降りかかった災難だ。人がどう感じようが関係ない。なぜならここは地獄だ。だれかに判断されて何か利点があるか、そんなものはない。


亮はほのかに笑った。その笑いを”目”は見た。そう、あの目が醜聞としてとらえて見たのだ。それすらも亮は笑ってしまった。あほらしい。

わずかな希望が見え隠れしていたあの若いころが懐かしい。あの苦しみの中にわずかに見出した希望、あの希望はくその役にも立たなかった。あんな希望なんてまやかし、思いついたことさえも忌々しい。


何層目かはわからない。そんな思いに亮は支配された。


自分の行動を、言動をひどく忌々しいものになった。少しでも希望を抱いたことも、そして、その希望に自分を託したことも。されど亮は自分の醜聞の本質だけには忌々しさを感じていなかった。それはまだ亮は意識していない。ただ無意識下では感じていた。どこか膜のように覆っていたのだ。それは本当に小さなことだと亮は見過ごしていた。そんなことが、この地獄の本質などとは思わなかった。

醜聞は他人からの攻撃だ。それは恨むことであるけれど、自分のこととして悔いることではないと。他人が俺から心を引きちぎり、俺の目にひたすらその光景を映写している。ひどい話だ。

亮はこの極限でさえ、こうして思考を巡らしている。脳みそがあることを意識していなかった。それに、こうして思考している不思議さをも感じなかった。

ーーーあの女がいけない。あの女が総大将などとうそぶいているから、俺はこんな地獄を転がり落ちているのだ。そうだ、あの女が元凶だ。


だれかがささやく。

「お前が選んだのだ」

それは女の声ではなかった。だれの声であったか。亮はわからないながらも不思議がった。あの女が総大将といったではないか。あの女が俺をここに送ってきたのに、どうしてそんな声が聞こえるのか。あれは誰だ?


目が引きちぎられそうになった。必死に目を閉じようとした。

ーーーあの声が聞こえた。

「本質を見よ。さもなければ、お前の目を引きちぎる」

目がとらえたのは、大きな”脳みそ”だった。



<to be continued...>

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