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モテる理由/マティス展-色、形、線、冒険のはじまり

1.マティス展-色、形、線、冒険のはじまり@東京都美術館

都美さんの気合を感じるフライヤー群

混んでいました。私が今年の上半期に行った9つの展覧会の中で、1番混んでいました。
他の展覧会に比べて鑑賞者の年齢層が幅広く、女性のグループや若いカップルといった複数で来ている人も多かったような気がします。(私調べ)
日時とか天候とか、その他いろいろな要因はあるのでしょうけれど、やっぱりマティスは人気があるんだと思います。
なんでマティスはこんなに人気があるのだろう???…今回は、そんなことをつらつらと考えながら、鑑賞しました。

2.人気の理由

●軽やかな楽しさがある
本展覧会に出されていた作品を見た範囲ですが、マティスの絵画には暗いテーマが無いです。
室内の風景だったり、サーカスだったり、日常や日常の中の楽しみをテーマにしている作品が多いのです。「喜怒哀楽」でいうなら「楽」。
しかも、胃もたれしない楽しさです。恋愛に溺れるようなドロドロしたテーマはないです(ルーブル展のフランチェスカをまだ引きずっている)。リビングに飾りたくなる絵画。そこに親しみやすさや安心感を感じられるのではないでしょうか。

マティスが晩年に取り組んだ「ヴァンス・ロザリオ礼拝堂」の展示もありました。
礼拝堂というと、私はどうしてもシュテファン大聖堂のようなゴシック様式の荘厳な建築をイメージしてしまうのですが、ヴァンス礼拝堂はこじんまりしていてカジュアル、居心地が良さそう。そして、たくさんの光にあふれています。キリスト教に詳しくない私ですが、思わず「神の祝福」という言葉が頭に浮かびました。

●ヴァンス礼拝堂 参考サイト↓
家庭画報の記事ですが、マティスとマティス展について詳しく載っています

●女性へのまなざしが優しい

夢(1935)

今回のお目当て、「夢」。この絵が見たかったんです。

女性はマティスのアシスタント兼モデルのリディア・デレクトルスカヤ。
充実した疲れの中で、深い眠りについている様子が想像されます。健康的なバラ色の肌とリラックスした姿勢、穏やかな表情がステキで。観ているこちらまで愛情に包まれるような、幸せな気持ちになれる作品でした。

キャプションに、マティスは「モデルがどのようなポーズを取るかを決めるのは画家ではない」「自分はただ奴隷のように従う」と言っていた、と書かれていました。画家とモデルの関係性がわかるような言葉だと思います。

●色づかいのセンスがいい

マグノリアのある静物(1941)/黄色と青の室内(1946)

「マグノリアのある静物」の色づかい。赤の背景に紫、青、緑を合わせちゃって、どうしてごちゃごちゃにならなんだろう? …すごく考えた末に出た答えは、「マティスだから。」

元も子もない話ですけれど、色使いのセンスというのはもって生まれたものに大きく左右される、と個人的に思っています。
マティスの絵を見ていると、初めから「これはこの色」とキッパリ決めているような、迷いのない選択をしているような気がしてくるんです。
ピカソに「色の魔術師」と言われたそうですが、それは思いもよらない色を簡単に出してくるという意味もあったのではないでしょうか。
マティスにとって色はごく当たり前に使いこなせるもの、そう感じました。

晩年、体調を崩したことをきっかけに本格的に切り絵を始めたマティスですが、これが彼のツボにハマったのは、あらかじめ彩色された紙を切り出す作業がマティスの思考とリンクしたからなのではないかしら…。

●弱さを見せない

コリウールのフランス窓(1914)

「コリウールのフランス窓」は、マティスにしては珍しく黒が強調された作品です。元は黒い部分にも窓から見える景色が描かれていたようですが、後から黒く塗られてしまったようです。
第一次世界大戦開始直後という時代背景が影響しているのかもしれません。キャプションに、「兵役を希望したが不合格」云々が書かれていたと思います。サインがなく、マティスが最後まで手元に置いていたことから、未完成作品だと推測されているとか。
私は、自分の暗い部分(つらさ、弱さ、不甲斐なさ)を見せたくなかったから、と捉えることもできるのではないかと想像しています。

●感覚を共有できる

金魚鉢のある室内(1914)/オレンジのあるヌード(1953)

マティスは色よりもフォルムにこだわっていたんじゃないか?

作品群を観ているうちに、そんな考えが浮かんできました。
とにかく線を描き直しているのです。「座るバラ色の裸婦」は、13回も書き直したそうです。(確かに線の跡が見えて、制作過程が伝わってきて面白いです。)絶筆と言われる「オレンジのあるヌード」でも、最後の最後まで女性の腰のラインを描き直しています。

同じモデルで数年にわたり何度も制作された彫刻が並んでいる展示も興味深かったです。(「アンリエット」1925、1927、1929年。「背中」1909、1913、1916−17、1930年。)
作るたびに要素が削ぎ落とされフォルムが強調されていくにしたがい、モデルの本質が現れてくるように見えました。例えば、女性の頭部はだんだん顎が出て口元が強調されてきていて、この女性はもしかして、おしゃべり好き?と思ったり。

「夢」では、女性の腕が長くなっているのが見てとれます。模写してみると、いや長い長い、想像以上に長いです。でもどうでしょう、この形で、眠りの深さが感じられませんか?

また、「金魚鉢のある風景」では、ぱっと見て中央に金魚が2匹いるとわかります。でもよく見ると、実はただの楕円。鱗も背びれもありません。
私はなぜ、楕円を金魚だと判断したのだろう?
おそらく脳内で、室内→テーブルの上→透明な円筒形の容器(水槽)→赤い楕円=金魚 という推理が瞬時に成立したから。
そして作品のタイトルを確認しマティスのメッセージを理解できたと知ったとき、うれしくなりました。誰かと感覚を共有できると、うれしいものですよね。

マティスは、自分が伝えたいことを表すフォルム、鑑賞者が理解できるギリギリのフォルムを探求して、イメージの共有をしようとしていたんじゃないか、そんな気がしました。

●まとめ
女性に優しい。楽しくて、センスがよくて、共感できる。弱さは見せない。
---理想の彼氏じゃないですか! マティスの作品にはモテる条件が揃っていたわけです。
そしてまた、楽しさや共感はそれを誰かに伝えたくなる。だからマティスは誰かと一緒に観たくなるのかもしれません。

3.きょうのおみやげ

●絵はがき
今日の収穫は、上掲した「絵はがき 6枚」です。

今回もミュージアムショップは見どころ満載!…なのですが、いかんせん人が多く、じっくり見ることができませんでした。
チラッと見えたなかで面白いなと思ったのは、「かりんとう」と「ホットチョコレート」。本展覧会の作品を見た人ならわかる、という代物です。

個人的には、ロバート・キャパがアトリエにいるマティスを撮影したというポスターがかっこよくて気に入ったのですが、お値段の高めで尻込みしてしまいました。ゆっくり検討できていたら、買っていたかも…(^-^;

4.展覧会情報

●展覧会公式サイト

●東京都美術館(2023年4月27日から8月20日)

https://www.tobikan.jp/exhibition/2023_matisse.html

●2024年2月には国立新美術館でもマティス展が開催されるようです。どんな内容になるか、楽しみです!


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