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【読書】画家・鴨居玲の本を5冊読んで気づいたこと

笠間日動美術館に「鴨居玲のパレット」を観に行った思い出にと、鴨居玲の本を1冊、手に取りました。
軽い気持ちで読み始めたものの、登場人物のまじめさ、ひたむきさに圧倒され、興味を持ち…。気づけば、5冊読了。

せっかくなので、今回はじめての読書感想文に挑戦してみます!

●日動美術館と玲のパレットについての記事はこちら↓


読書リスト

●1冊目:鴨居玲 死を見つめる男(2015)/長谷川智恵子

期待度3 満足度3

著者は笠間日動美術館の副館長。
日動画廊で玲と個人的に親交があったため、玲の行動や人間的魅力が書かれています。絵、ポートレート、直筆の手紙なども掲載。
画商の目を通してみた、玲の絵の考察も興味深かったです。

●2冊目:洋子と玲 ー鴨居兄弟の光と影(2023)/植松三十里

期待度3 満足度5

玲と姉・羊子の生涯をていねいに著した本。
鴨居羊子(有名な下着デザイナー)には、最初、興味はなかったのですが、いや羊子大事! 画家・鴨居玲を育て世に送り出したのは洋子、といっても過言ではないくらい二人の人生は濃密に絡まりあっていました。
異文化体験、一流文化人との交流、戦争、家族環境が二人の人生にどのように影響を及ぼしたかがわかる一冊。最後のエピソードでは大号泣。

3冊目:鴨居羊子とその時代 下着を変えた女/武田尚子

期待度2 満足度3

戦後の被服や女性の意識改革をした、洋子の功績や人間関係が中心。
玲に関する記載は少ないですが、洋子の軌跡を知ることで洋子にとって玲がどういう存在だったのかが垣間見える気がしました。
若いころの玲のオフショットを発見。貴重だと思う。

●4冊目:わたしは驢馬に乗って下着をうりにゆきたい(1973)/鴨居羊子

期待度4 満足度4

新聞社で働き始めたころから下着デザイナーとして起業し成功、母親が亡くなるまでが書かれた羊子の自伝。
前半、新聞記者から転職し下着デザイナーとして軌道に乗るまではとにかく文章がパワフルでスピーディー。うってかわって後半(事業が安定したあたり)は夢とも現実ともつかないような内容に。洋子の心の変化が伝わってきます。

●5冊目:踊り候え 新装復刻版(2023)/鴨居 玲

期待度5 満足度5以上

玲のエッセイはテンポがよく、読ませるのが上手な文章を書く人だなぁ、読書家なのかなぁ、と感心。
一方、美術史家・坂崎乙郎さんとの対談やインタビューなどでは真摯な受け答えをとつとつとしているのが印象的。玲がどのように絵を描いていたのかもわかります。
羊子が書いた追悼文は読むだけで哀しい…。未発表の玲の絵も見どころ。

芋づる読書で気づいたこと

本に登場するのはすべて実在した人々ですから臨場感がすごかったですし、多くの発見がありました。

例えば、家族の寿命や戦時中の凄惨な体験が、私が玲の絵に感じていた「死の影」の源だったのでは、とか。

ブラジルやヨーロッパを転々とした玲が、いちばん気に入った国はスペインだった(ラ・マンチャ地方の村に長く住み着いています)と知り、そういえば、玲の絵はゴヤに通じるものがあるかも、と思ったり。

玲と羊子には特別なつながりがあったことも知ることができました。(多くの人が証言している)
鴨居きょうだいの共通点は、心の中の「葛藤」に折り合いをつけず、正面から向き合う生き方をしたところではないかと。
同時に、向き合い方のベクトルが真逆なのも興味深い。ずんずん前へ進む羊子、どんどん自分を追い込む玲。
そんな二人の才能と人間性に、多くの著名人が魅了されたこともわかりました。

人物相関図メモ

複数の本を横断すると、あるひとつの出来事でも人によって捉え方が異なる、ということもありました。

例えば、玲の性格についても、繊細・オッチョコチョイ・激情的・ユーモアがある…など評価は人によっていろいろ。

つまりは、ものごとは色々な見方ができるそして、多方面から見ることで人物やできごとがより立体的に浮かび上がる。
Aさんはこう考える、Bさんはこう考える、じゃあ、私はどう考える?
…と、自問しながら読みすすめた5冊でした。

いままで読書は乱読派でしたが、今回のようなひとつのテーマで複数の本を読む方法(芋づる派と勝手に命名)、新鮮で楽しかったです。

本に出てきた気になる3人の画家

●宮本三郎(玲の師匠)
玲は幼い頃に父の友人の画家・宮本三郎と出会い、後に師事、生涯の師とします。(確かに絵の雰囲気が似ています)

特に玲が若いときに「あんな絵が描きたい」とあこがれた「飢渇」は、鬼気迫る絵です。

「飢渇」を観に、宮本三郎美術館に行かなくては。

●若林 和男(玲の若いころからの友人)
玲を初めての海外旅行(ブラジル)に誘い、本人はその後も帰国せずブラジルに帰化。この方の一生は、どんなだったのだろう。

●岩島 雅彦(玲の後輩、友人)
玲が亡くなったときの第一発見者。この体験は、自作の絵にどんな影響を与えたのだろう。気になります。

過去と未来の展覧会情報(妄想あり)

●鴨居玲展 人間とは何か?/中村屋サロン美術館
2022/9/14~12/4 (会期終了)

以前、鑑賞した展覧会です。(タイトル写真は、当時のフライヤー)
公式サイトのYouTubeで解説が観られるので貼り付けておきます。

●金沢美大 草創の三羽烏-鴨居玲と円地信二・村田省蔵-/石川県立美術館
2024/8/31-9/29

玲の故郷である金沢の石川県立美術館では、玲の命日に合わせて毎年展覧会が開催されているそうです。今年はなぜか3人展。でも行ってみたい。

トップページ→「年間スケジュール」(PDFファイル)に掲載


●「没後40年 鴨居玲展」(妄想)
調べたところ、大規模個展が5年ごとに開催されているようです。一番最近では、2020年の「没後35年 鴨居玲展 静止した刻」。

ということは、来年、2025年に「没後40年 鴨居玲展」が開催されるのではないでしょうか?!
個展のタイトルは何だろう。過去の個展は、作品の名前からとっているんですよね。妄想段階ですが、すでに今からワクワクしています。


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