ラブ&リボルバー

 朝起きて顔を洗い、身支度を済ませる。制服は楽でいい、何を着るか考えなくて済むから。出かける前に彼の部屋に行き、おはようの挨拶をして拳銃の撃鉄を起こし、狙い、引き金を引いて、殺す。
 仕事を終えて、夕飯を食べ、洗い物をして、それから彼の部屋に行く。部屋に入ると彼は以前と変わらない姿、変わらない笑顔を見せてくれる。おやすみと言ってまた引き金を引いた。

 休日は買い物へ。たまのおしゃれも悪くない、気持ちが切り替わってスッキリする。ショッピングモールへ行って前から欲しかった本を買った。その後は近く公園で読書を楽しむことにした。内容はSFで星と星を旅する主人公が出会いと別れを繰り返すロードムービーのような物語だ。私はこのシリーズが好きで、だからこそ通販でなく手にとって買いたいと思っていた。
 ふと気がつくと陽は傾いていた。これだけ夢中になって本を読んでいたのは久々かもしれない。急いで帰り、夕飯を済ませ。彼に遅くなってごめんね、と謝ってからまた引き金を引いた。

 部屋は防音だから銃声が漏れる事はない。窓もないから人から見られる心配も無い。ここを知っているのは私と彼だけ。
 おはよう、おやすみ、いってきます、ただいま。たまに近況報告して、引き金を引く。そのたびに彼は少し笑って、頭から血を流し、椅子から崩れ落ち、死ぬ。何度も何度も繰り返した。彼の後ろの壁には幾つもの貫通した弾の痕と飛び散った血、床には血溜まり。死ぬたびに何度も上塗りされ乾いては濡れを繰り返したそれは、どす黒い血の地層となって残っている。ただそれは彼が死んでいる間だけ現れて、生きている間は消えている。

 彼を愛してる。彼も私を愛してる。彼が私の名を呼ぶことはない。私も呼ばない、そういう約束だから。もし呼ぶことがあったらそれは彼でなくなったとき。そして直観だけどその日はたぶん、近い。もうすぐ私と彼を繋ぐものはこのリボルバーだけになる。

つづく

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