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美しいものは評価されるヨーロッパ

アンティークジュエリー(100年以上前)とヴィンテージジュエリー(100年以内)
の最大の特徴の差は、制作過程です。
機械化が進む前の1800年代のジュエリーは手仕事の工程が多く、
よりデリケートな印象を抱くジュエリーが多いです。
1930年代のアール・デコを経て、それまでは王族、貴族、一部の富裕層だけが
身に付けていたジュエリーの文化が少しずつ一般的に広がっていきます。
そして、1940年代に第二次世界大戦が終わると、
暗い時代を吹き飛ばすかのように、
華やかで明るいジュエリー、よりカジュアルなジュエリーも増え、
一気に若者を含めた、多くの人たちの文化となっていきます。

戦後、機械化が進んだこと、
時代やトレンドに合わせたデザインのジュエリーが出てきたこと、
ジュエリーデザイナーたちの新たな挑戦によって、
1800年代では生まれなかった大胆なデザインも、生まれました。
個人的には、戦前から戦後直後に活躍したジュエリーデザイナーたちの作品は、
大好きです。
ハスケル 、ブーシェ、ロスレー、ディオール…バイヤーになる以前から収集しています。
より現代のジュエリー文化に近い、モダンで斬新なデザイン。
でも、手仕事の良さもしっかりと感じる。
その絶妙なバランスは、現代のジュエリーでは真似できないと思っています。

対して、アンティークジュエリーの良さは、圧倒的で丁寧な手仕事。
幼い頃から奉公に出て、ジュエリー工房で修行した職人たちが、
時間を惜しまず、技術を注ぎ込み、一つ一つ制作したジュエリーたち。
素敵なアンティークジュエリーが放つ空気感は、
ヴィンテージジュエリーでは出せない世界観があります。
背筋の伸びた凛とした、美しい女性のような佇まい。

イギリス留学中に、ジュエリーバイヤーになると決めた私が感動した
アンティークジュエリーの一つがカットスティールです。
メルティングポットでも、継続的にご紹介しています。

カットスティールとは、、
カットスティールとは、その名の通りスティール=鉄をカットしたもの。
18世紀中期からイギリスで製作されたのがはじまりで、ダイヤモンドの代用品として生まれました。

職人による手作業で鉄をビーズ大に小さくカットし、研磨して作られていたため、
鉄とは思えないほどにキラキラ輝いています。
鉄なのに、なぜパールと価格が変わらない?と思われる方もいらっしゃると思いますが、あまりに手間がかかりすぎるため、高い職人の技術を必要としたため、
100年以上前に制作がストップしており、
その独特の美しさにヨーロッパアンティークジュエリーを象徴する一つとして、
アンティークの世界では高く高く評価されているものの一つ。
その価値は、天然石であるガーネットやシードパールと並びます。

また、カットスティールの中でも、クオリティには幅があります。
一般的により古いものの方が、細工が細かく、質が高く、
カットスティールの一つ一つが小さいジュエリーが多いです。


時代は少しずつ変わっていますが、
ヨーロッパでは古いものに対するリスペクトが強くあります。
新築のアパートメントよりも、数百年前に建てられたアパートメントが高額だったりするケースも少なくないです。
壊れた箇所を修復し、リノベーションしながら、ずっと住み続けることも
一般的です。
古い=価値が下がる。といった概念がありません。
著名な現代アーティストが、国内有数のアンティークコレクターというのも、
有名な話です。
鉄という、素材としては決して高額ではないものを使ったカットスティールというジュエリーが、
その高い手仕事と、歴史的背景を尊重し、美術館に展示される。
美しいものは評価される…芸術が好きな私にはとても感動的でした。
最初はカットスティールの美しさに魅了され、興味を持ちましたが、
歴史を知った時に、さらに引き込まれました。

メルティングポットのオンラインショップでは、
定期的にカットスティールをご紹介していますので、ぜひ。

http://meltingpot-shop.com



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