ハニーチュロで脳が揺れた話
君はミスタードーナツで何を食べる?
僕はずっと期待を裏切らないポン・デ・リング、エンゼルフレンチ、そしてオールドファッション。これを食べるためだけにミスタードーナツに通うと言っても過言ではない。
3月に誕生日を迎え、何人かの友達からミスタードーナツのLINEギフトが送られてきた。そういえば期限がそろそろだったな。
そう思い、気付けば自分はミスタードーナツの店頭に立っていた。
ところがもう店終いなのか、店頭に並ぶ品数があまりにもパッとしない。ポン・デ・リングやオールドファッションという安定の味ににココナッツやハニーをかけている通称「蛇足ドーナツ」や、よく分からないコラボ商品の数々。
自分の密かなる推しドーナツのゴールデンチョコレートの姿すら見えない。どういうことだろうか。ちっとも食指が動くようなドーナツが店頭に無いじゃないか。
そう、落胆した目線の先に君はいた。
黄金のオーラを放ち、浮世離れした出立ちの君。
ハニーチュロだ。
何だ君は?ドーナツなのか?
と言うのも、自分はずっとハニーチュロを食べたことがなかった。
先述したように、自分はミスタードーナツに行くと毎回同じような注文をする。わざわざハニーチュロを買おうなんて発想は持ち合わせいなかったのだ。
しかし、今回ばかりは話が違う。
どうやら自分の定番のセレクトはこの店ではできないようだ。LINEギフトの料金的にあと一品。自分は気づけば、つぶらな瞳でこちらを見てくるハニーチュロのことが気になって仕方なくなっていた。
ハニーチュロの冷えた細い手をとり、自分は気付けば会計に並んでいた。間に合わせで買ったハニーチュロ。果たしてどんな味がするのであろうか。
覚悟はいいか?俺はできてる。
自分はずっとハニーチュロを見下していた。
ハニーチュロはあくまでも自分の中ではチュロスであって、ミスタードーナツに行く時はチュロスじゃなくて、ドーナツを食べることを心に決めていたからだ。
ドーナツじゃなくてチュロスを食べようと言う時に、わざわざミスタードーナツに行こうと思わなかったのだ。
チュロスをぎゅっと円形にしてドーナツの形を装って誤魔化しているハニーチュロをどこかで自分は見下していたのだ。
家に帰ってすぐミスタードーナツの袋を開けた。袋の中からハニーチュロが優しくこちらを見つめてくる。「そんな目で俺を見るなよ」。心を落ち着かせるため、一旦冷蔵庫からキンキンに冷えたコーヒーを取り出して飲んだ。一呼吸置いてハニーチュロに手を伸ばし食べてみる。ハニーチュロの重なった部分から一口食べてみた。
その瞬間、目の前が真っ白になった。衝撃だった。ハニーチュロの美味しさのあまり脳が揺れたのだ。
しっかりとした蜂蜜の味。固くひんやりとした表面の中には、どこかしっとりとした食感。この調和が完璧だった。嗚呼、自分の今までの人生は何だったのであろうか。ドーナツを食べたいと躍起になるばかりに、こんなにも美味しいものを見落としていたのか。
生まれてきて22年目の今日この頃。人生初の経験なんてことはそうそうないのかもしれない。22年も生きているとある程度、自分の好みの傾向が分かり、何かを選び買う時も今までの人生の経験則に従ってしまう自我なき自己がいた。しかし、少し手を伸ばして今まで経験したことない要素を人生に取り込むことで、世界が開けることもある。そういうことをハニーチュロは教えてくれた。少しどこかで見下していたハニーチュロは自分の脳を揺らした。
思いがけない衝撃には人間は耐えきれないんだなぁ。
これからの誕生日プレゼントはミスタードーナツのギフト券でお願いします。ハニーチュロを買います。なんなら、今まで誰が買うねんと思っていた「蛇足ドーナツ」にもチャレンジしてみようかなと思います。新たなる世界を求めて。
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