無料・格安で仕事を振ってくるメディアへの掲載に宣伝効果などない

 さんざん擦られている感のある、「今回は報酬をお支払いできないのですが、あなたの宣伝になりますよ」というタイプの声掛け。
 ライターやイラストレーター、漫画家のみならず、作曲家でもハンドメイド作家でも製品製造業者でも幅広く見られるようであり、Web上には不満と怨嗟の声が渦巻いている。


 まともに道理を弁えていたら、この理屈が成立しないことは明らかだと即座にわかる。

 そもそも各企業が膨大な費用を投じてTVやラジオ、インターネットに広告を流すのは何のためか。宣伝のためだ。膨大な費用の内訳としては、当然人件費が大きな割合を占める。
 つまり、タダで人を働かせて得た成果で「あなたの宣伝になる」といえるほどの宣伝効果が本当に得られるなら、ほとんどの企業は宣伝広告費を掛けずに済ませようとするはずだ。

 ブレーンが揃っているであろう大手企業が多額の宣伝広告費を投じているという事実がある時点で、広告の必要経費である「作業者への報酬」も出せ
ないような依頼主(メディア)に宣伝力などないことは自明なのである。


 この「報酬は払えないが宣伝になる」という理屈が腹立たしいのは、単にまともな報酬を払おうとしないのみならず、「宣伝になる」との言い草が恩着せがましく、かつそれもデタラメだという点だろう。

 もちろん、作業者側からこうした話を持ちかけるのは構わない。
 たとえば「あなたのメディアに載ることが実績作りや知名度向上に役立つので、報酬は要らないから掲載してほしい」などと依頼するケースだ。

 だが、普通に考えればわかるとおり、これは広告費を支払って宣伝してもらうのとまったく同じ構造である。一般企業が広告費を払う代わりに、作業者はタダ働きをするというだけの話だ。「作業者=(広告)依頼者」という関係であるに過ぎない。

 そして、おそらく「そこに載ることが宣伝になるようなメディア」であれば、作業者側の「タダでいいので」との話を受け容れることはない。
 なぜなら、そのメディアが信頼を獲得できたのは、きちんとした対価を支払って初めて得られるような、質の高い情報を載せ続けてきたからこそだと考えられるからだ。
 「掲載されること=名誉・知名度向上」という関係が成り立つまでになったのは、タダで手に入る怪しげなものをホイホイ載せるような軽率な真似をしなかったがゆえだろう。
 そのようなメディアは、持ち込まれた企画や成果物が掲載に値するものだと判断した場合、正当な対価を提示するものなのである。


 相手から打診してきた「無料・格安の仕事」は、仮に宣伝になるとしてもマイナスの効果を有する。いうなれば、詐欺まがいのビジネスで摘発された会社で勤めていた経歴みたいなもので、ないほうがマシだ。

 よほどの貯蓄がない限り、無料・格安の仕事に割ける労力や時間などたかが知れているし、クオリティも大したものにはならないだろう。そのようなものが自分の名義で世の中に出たら、まともなクライアントからどのように評価・判断されるか、想像してみればいい。


 もしかすると、100件に1つ、あるいは1000件に1つくらいは、そうした無料・格安での打診にも良縁が紛れ込んでいるかも知れない。
 それを期待するのは自由だ。

 ただ、以上に述べてきたような理屈を踏まえると、そうした仕事を受注する危険性は大きいと言わざるを得ない。プラスにならないだけならいざ知らず、マイナスになるリスクも考えねばならないからだ。

 働いたら働いた分の正当な対価をきちんと得る。
 それは自分自身の価値を尊重する上での基本である。

 その点を理解していない声掛けは、遠慮することなくお断りしていい。



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