保育園と火葬場

 近隣住民から建設への反対の声があがる施設として代表的なのが、保育園と火葬場だという。片や生命・若さをイメージさせる施設、片や死・老いを想起させる施設ということで正反対に近い感じでもあるが、嫌厭される点では近しいようだ。

 それぞれ家の近くにあってほしくないとされる理由はいくつか挙げられるが、両施設はいずれも物理的な問題から支障が生じるのではない。保育園は音、火葬場はにおいという、非物理的なアタックが問題視される。いわば術攻撃みたいなものだ。


 物理的な攻撃は威力が高い反面、防ごうと思えばわりと手立てはある。しかし、こちらの感覚器官にダメージを与えてくるような現象は、対処が非常に困難だ。なぜなら、音に対処しようとしたら必要な音まで聞こえなくなるし、臭いに対処しようとしたら嗅ぎたい匂いまで嗅げなくなるからである。つまり、自分にとって不快な刺激だけに限定して打ち消すことが難しいわけだ。

 だからこそ近隣トラブルの例として騒音や悪臭が挙げられるのだろう。

 現在、焼き場の臭いのほうは技術の発展により相当改善されていると聞くが、それでも独特の臭いが感じられるという声は根強い。加えて、縁起が悪いといったイメージ低下の問題もある。

 他方、保育園には火葬場的なイメージの問題はないが、騒音自体への対処が追いついていない現状だという。子供の騒ぎ立てる声が問題なのだというのであれば、それのみを掻き消すことはできないものか。

 ここで思いつくのがノイズキャンセリングの技術だ。ノイズキャンセリングとは、イヤホンや電話機などに備えることのできる機能で、雑音をシャットアウトするものである。当然、イヤホンや電話機で全ての音を遮断してしまったら音楽も通話相手の声も聞こえないという意味不明な事態が生じるので、そういうことにはならない。うまく雑音だけをカットしてくれるのがノイキャンの技術なのだ。

 ノイキャンには大別してパッシブとアクティブがあり、これもまたゲームのスキル区分みたいな用語だが、前者は物理的に音を防ぎ、後者は騒音と逆位相の音波を出して打ち消すといった仕組みだという。

 保育園をコンクリートのドームで覆うわけにもいかないので、パッシブ・ノイズキャンセリングは厳しい。が、アクティブ・ノイズキャンセリングの技術は使えないのか。事実、工場などには取り入れられつつあるというが。

 これも少し調べた限りでは、子供の騒ぐ声と工場などの物音とでは性質が異なり、難しいようだ。ただ、数年前の情報だったので、今ではもっと実現可能なところまで来ているかも知れない。


 子供を自由に走り回らせるにも、ご遺体を存分に焼くにも、それなりに広い土地が必要となる。
 都市設計ゲームのように、建物や施設を造ったり壊したり移動させたり、といったことが簡単ならいいが、あいにく現実はそうじゃない。

 さまざまな建物が合理的に、わかりやすく、行き来しやすく建てられ、しかも美観にまで配慮されていればいいと思う。ただ、それを現状の都市に適用するのは不可能だ。
 ゼロから市町村などを立ち上げるプロジェクトがあったら、さぞかし面白そうだと思う。



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