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いつでも笑いがなけりゃ・・沖縄心情

 アメリカに住んでいた時、ニューヨークやシカゴなど北部に住む
ビジネスマンたちとの会話の中で
「リタイヤしたら暖かいフロリダかハワイに移住したいね」と、
判で押したように話していました。
そんな老後のプランに影響されたようで、自分もいつか
ハワイに住みたいと考えるようになりました。
ところが具体的に計画してみると、移民の手続きの難しさや
資金面の不安などがあって思いは段々と薄れてゆきました。

 夫婦揃って還暦の記念旅行で、沖縄を旅しました。
そうだ、ハワイがダメなら沖縄もいいじゃないかと
南国への移住の思いが再燃しました。
すっかり二人とも沖縄が気に入ってしまいました。
その後、移住を前提とした旅行を繰り返しました。
家庭の事情も許されるようになって、74歳でいよいよ
移住を決行しました。
 
6月13日に移住の地、沖縄の那覇空港に降り立ちました。
マンションの部屋に手持ちの荷物と途中のホームセンターで
買い物した炊事道具と夜具を持ち込みましたが、
ガランとして寂しいものでした。
窓からは小高い山の緑が広がり、東京では味わえない
開放感があります。
梅雨の湿気を含んだ風が絶えず吹いていました。

20日には10日前に送り出した引っ越し荷物が到着しました。
東京での積み込みでは10人以上の人が2時間で済ませましたが、
こちらでは半分以下の4人で持ち込みました。
20フィートコンテナで輸送した荷物をなんと同じ2時間で
済ませてしまいました。
体格は普通なのに、凄い力持ち揃いで、ニコニコと笑顔で
作業を終え、ペコリと挨拶して帰ってゆきました。
非力の我が身とは比べようもない怪力を目の当たりにして、
無条件に感動したものでした。
まず沖縄の人の底力を見せつけられました。
 
 那覇市の南の南城市で新生活を始め、まずは市役所で転入の手続きに
行きました。
土砂降りの雨の中で不案内の道をトロトロと車を走らせましたので
予定から遅れてしまい、5時少し前に到着しました。
担当の窓口に行き、閉館直前で大丈夫かどうか恐る恐る聞くと、
女性職員がチラッと時計を見てからすぐに笑顔になって
「大丈夫ですよ」と言って扱ってくれました。
東京の役所なら、即座に明日来て下さいと言われることでしょう。
沖縄の人は時間にルーズだと聞かされていましたが、
それは大らかさと言い換えるのがいいようです。
 
 ある時、まんぷく食堂というお店で食事をしました。
料理が運ばれてきて、見るとご飯がおてんこ盛りです。
店の人に、こんなに食べられないので半分にしてくださいと言うと、
主人が半分に減らしたご飯を運んできて、
「スミマセン、自分が普段食べる量のご飯をお持ちしてしまいました」
とメタボのお腹をさすりながら、ニコリとして笑いを誘います。
 
 ラジオを聴いているとジョーク連発のトーク番組が多く、
ケラケラと笑い声が絶えません。
沖縄の人は笑う事が大好きで、どれだけ人を笑わせられるか
いつも頭を巡らせています。
居酒屋の看板の脇に一文が書かれた垂れ幕があって、
そこに「ご主人預かります。料金2時間1850円」とあります。
一瞬、託児所のことかと思いましたが、なーんだ居酒屋かと
意味がわかると可笑しくて吹き出しました。
千円でベロベロに飲めますよ、の「せんべろ」の表示はよく見掛けます。
そのつもりで見てゆくと、あちこちにプッと笑わせるような
表現が溢れています。
 老人クラブのゲートボールのグラウンドには看板があって、
「三ない運動 責めない、怒らない、愚痴らない」とあります。
ゲートボールのルールの底意地の悪さにやられた老人を腐らせない
見事な標語です。
 
 細い通路を行くと向こうから黒々とした無精ひげの怖い顔した大男が
来ます。困ったなあ、ド突かれるんじゃないかと身を堅くしていると、
意外にもかすれぎみの高めの声で「どうぞどうぞ」とニコやかになって
身を引いてくれました。笑顔をよく見ると可愛らしく見えてきました。
こちらをお爺さんと見ての謙譲の態度のようです。
沖縄では年寄りをオジイ、オバアと呼んで大切にする風潮があります。
新生活を始めた南城市のロゴマーク、マスコットはなんと「なんじぃ」
というお爺さんです。
世界中どこの市町村でお爺さんをキャラクターにしているところは
あるでしょうか。
街中でこの「なんじぃ」のキャラクターに出会います。
 
 沖縄に来る前に色々とネット情報を漁りました。
とんでもないカビとの戦い、想像を超える台風の脅威、
10センチのゴキブリ、ハブの被害などなど、
面白可笑しく伝えています。
かなり盛った情報ばかりで実際とは違っていました。
10センチのゴキブリなど、出会っていません。
小さい可愛いヤモリがいたくらいです。
どういう訳か蚊がいません。
夕方、木立の中を散歩しますが、ヤブ蚊もいません。
梅雨が明けて晴天続きでカビの心配はなくなっています。
 
 車で10分も走らせるとニライカナイという海を望む絶景の
ループ型橋梁があり、ビーチに降りると
白い砂浜に透明の青い海が広がり、磯浜にはコバルト色の
熱帯魚が泳いでいます。
ほとんど人もなくプライベートビーチのようです。
 
 一方、年間800万人という観光の要地ということから
本土からの資本がどんどん入り、整備が行き届き、
ほとんど違和感なくタウン生活もできます。

 沖縄の人々は目が合えば挨拶して微笑みをくれます。
年取ると子供たちの様子がとても可愛く感じるもので、
思わず微笑みかけることがありますが、
そんな時東京では警戒してか怪訝な表情が返ってきます。
沖縄の子供たちは素直に微笑み返してくれます。
 
 車の運転も大人しく、ウインカーを出せばどうぞと車線に
入れてくれます。東京では車線変更のウインカーを無視して、
反ってスペースを詰めてくるなんていう意地悪なドライバーは
まず見掛けません。
 
 ここでは、ゆったりとした時間が流れていて、人々の心持ちも
余裕があり優しい態度になるのでしょう。
まだやっとひと月の新参者ですが、きっと馴染んで行けると
思えるようになっています。
 

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