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不思議な立ち位置

不思議な歌手だと思う、もんたよしのり。
テレビ、新聞で10月18日に72歳で急逝したと報じている。
そういえば、この人のCDがあったなあと取り出して、
何十年ぶりのご無沙汰を詫びてから聴いてみた。

「bitter」という11曲をリピートモードにして部屋に流し続けた。
どの曲も同じような楽曲構成で、お陰で何をしていても邪魔にならない。
本を読んでいても、絵を描いていても、部屋の掃除をしていても、
タンスの引き出しに夏物から冬物の衣服を入れ換えていても、
全然引っかかりなく軽快なロックのリズムに乗っていられる。

ふと、ナゼなんだろうと考えてみた。
きっとこの人の個性は、メインボーカルでセンターを張っているが、
風景として控えるようにしているようだ。
オレがここにいると出張る様子を寸分も見せない。

曲想に沿って感情を込めるようなことはせず、
ひたすら演奏の中に溶け込もうとしている。
CDのレコーディングでも、ボーカルとしての主役の位置を
ぼやかして、音量を下げているようだ。

歌詞カードを読んでみると、夜のディスコで繰り広げられる
女と男の欲望の駆け引きをどこか投げやりな調子で綴られていて、
なかなかドラマチックなのだ。
このドラマ性をあえて抑えて、一本調子に歌い、
まるでもんたよしのりという一つの楽器と化して
かすれた高音を放っているのだ。

ずっと聴いていたら、このスタイルの魅力にはまってしまった。
本人が聞いたら気を悪くするかも知れないが、これは一種の
心地よい環境音楽じゃないか。

若い頃、もんたよしのりを街で見かけたことがあるが、
小柄で目立たず、まるで自分の存在を消しているかのようで、
一瞬で姿を見失った。

どんな人生だったか知らないが、酒にタバコに夜更かしして、
音楽に明け暮れ、体のことなんか「シャラクセイー!」と
ほったらかしにしていた人のようにみえる。
健康に気遣う我が身がなにか女々しく
恥じ入る気分になったものだ。

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