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【最終回】絶対マスク男【ダメンズ④】

大学で出会ったNO告知帰省男と別れを告げた私は、理想の男性像の原点に帰ることにした。バンドマンだ。しかし彼はボーカリストの命である喉を守り続けた。マスクという武器を手に…。

Mさんとの別れを経て、私は晴れて社会人になった。新しい職場はおじいちゃんおばあちゃんの花園だった為、素敵なメンズとの出会いは望めなかった。ダメンズシリーズも本日で最終回です。過去を振り返ると、私は自分の理想とかけ離れたタイプばかりと付き合ってきました。だから、原点に立ち返ることにした。

私はバンドマンが好きだ。細くて後ろか前か分からないような、お尻にないシルエット。骨ばった手指。ゴリっと浮き出た鎖骨。めちゃくちゃ振り回して再起不能なくらい弄んでくれそうなビジュアル。だけど自分にだけは愛をくれるような人。そんな人が理想だった。これはいまの職場には存在しないので、ネットで探すことにした。

ネットは手軽だ。出会いがすぐそこにある。持ち歩ける。なんならこの世界の全ての男を持ち歩いているくらいだ。(男女逆転の視点も然り)私はすぐにネットでバンドのボーカルをしてる男の子A君と巡り合った。ピンク色の長髪に、いつもキャラ物の着ぐるみを着ていた。可愛い。年下だった。初めての年下は可愛い。未だにガラケーだった。可愛い。LINEはガラケーのezwebでやっていた。

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そんなA君と初めてのご対面になるまで、約3ヶ月は毎日LINEしていた気がする。ガラケーでのやりにくいLINEにも関わらず、とてもマメに返信をくれた。デート場所は彼の自宅だった。車で千葉県にある彼の家まで行く。家はマンションだった。両親はいなく、お兄さんと二人暮らしらしい。私はお兄さんに見つからないようにして欲しいという彼の希望に沿って、コソ泥のように家宅侵入した。

部屋の中はフィギアで埋め尽くされていた。バンドマンらしき機材や楽器は見当たらなかったが、彼はボーカルだからなくても問題ないだろう。ここまでの段階で、彼は一度もマスクを外さなかった。理由は「初めてネットで出会った子と会うから恥ずかしい」可愛いなぁ。分かる分かる。

私はおもむろに鞄から手作り弁当を持ち出す。A君からのリクエストだった。男の子の為にお弁当を作るのは生まれて初めてだった。卵焼き上手くできたかな?味は大丈夫かな?ドキドキしながら手渡す。しかしA君は「わぁ!ありがとう!」と喜ぶだけで食べてくれない。何故だろう?「食べないの?」私は尋ねる。「勿体無いし恥ずかしいから、くまメロちゃんが帰ったら食べるね!」

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「今食べて欲しい!」私はそう駄々をこねるとA君はしぶしぶ「わかった」と承諾した。そして彼はなんとマスクの唇部分だけを内側に折り込み、口だけ見えてる状態でお弁当を食べだした。しかも私に背を向けて。うーんこの。なんとも言えない感情に苛まされた。もう少し揺さぶってみよう。「キスして欲しい」私は甘えてみた。A君は恥ずかしいからと部屋の証明を全部落として真っ暗にした。そしてマスクを一瞬だけずらして、私にキスをした。今のキスがお兄さんではないという確証は持てない。

謎のデートが終わった。結論から言うと、A君は最後まで私の前でマスクを取らなかった。私がそれを寂しいと指摘すると「くまメロちゃんも一緒にマスクしたら寂しくないよ!はい!マスクカップルだね!」と使い捨てマスクを手渡されたりした。次第に私の中で、彼にマスクを取ってもらうにはどうしたら良いかということで頭が一杯になり、A君を追い詰めて行く。

1枚だけ、A君から貰ったバンドマン姿の写真はマスクをしていなかった。私は仕事中に、何だか物凄く言い表せないモヤモヤとした感情が生まれた。何か解せない。本当にA君は私の彼氏何だろうか?私は貰った画像を画像検索サイトにかけた。

結果発表〜!自分のバンド姿だとくれた写真の正体は、大阪で活動している知らないバンドマンの写真だった。私は彼氏に悪用写真を使われていたのだ。そこからの私はFBIだ。彼の情報を元にネットで彼について調べまくる。バンドなんてやってなかった。普通の男の子。ピンクの長髪の着ぐるみ好きの男の子。同じような手口で、自分はバンドマンだと騙された女が複数名いた。別れよう。

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最後に一縷の望みをかけて、A君にバンドのことや浮気(?)のことを電話で問い詰めてみよう。そこで見極めよう。彼の反応は号泣だった。「くまメロちゃんを幸せにできない自分が不甲斐ない」「バンドをやっているのは本当だけど、恥ずかしくて写真を遅れなかった」いつの間にか私も一緒に号泣していた。「私こそ、信じてあげられなくてごめんね」

なんとか首の皮1枚繋がった私達の関係だったが、その電話を境にA君からの返信頻度が急低下していった。忘れもしない、某年12月30日。「どうしても年越しを一緒に過ごしたい」と嘆願する私に「このままだと、くまメロちゃんが寂しくて壊れちゃう。僕といるとやっぱり良くないよ。別れよう」

寂しい年の暮れだった。翌日、私は同居していたおばあちゃんと紅白を見て過ごした。一人じゃなくて良かったと、あれほど思ったことはない。


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