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家賃25000円のボロ家に住んで⑫

芸人ブリキカラス小林メロディ(29)

彼は今、前代未聞のパンデミックにより芸人としての活動は途絶え、バイトも週1回あるかないかの金銭的緊急事態に陥っている
最近は父親からお金を送って貰ったのでなんとか東京を生き抜いている。



周りの人の話やSNSで「不動産屋が家賃を減額してくれた」といった非常に人情味溢れていて羨ましい美談を聞いたりする。しかし彼の所にはそんな連絡は来ていない。当然である。何故なら彼の借りている部屋は




家賃25000円だからだ。



これ以上減額の仕様もないだろうし、25000円ぐらい払えるだろと自分が不動産屋だったら思うだろう。しかし彼は25000円にすら四苦八苦している。

これはそんなボロ家に住む小林メロディの哀れな物語である。









最近、ステイホームの影響で自宅からリモートでの配信の機会が増えてきた。

(リモート配信中。ユニットライブのサンパチマイクに憧れてのメンバー)

相方や仲の良い芸人やユニットライブのメンバーや個人で配信することもあり、ほぼ毎日のように何らかのアプリで汚いロン毛と低音を世間に晒している。




リモート配信は主に



・純粋に視聴者に楽しんで貰うこと

・投げ銭を視聴者から頂いて収入を得ること

・「自分は芸人である」というプライドを何かを発信することで保つこと


といった理由で様々な芸人がステイホーム期間に行っている。かくいう僕も色々な媒体を駆使して藻掻いている。実際にやってみると学べたこともあり意義は少なからず感じている。



しかしながら、自宅からリモート配信をすることによる弊害は生まれていた。





僕の背後にボロ家が映りイジられまくるのである!






配信中、明らかに現代から逸脱したボロ家が映っていると芸人という生き物はそれを大喜利のお題として認識する。




「昭和の文豪が住んでた家」



「アパートオブザアパート」



「連合赤軍の本拠地」



駆け抜けて軽トラの小野島さんが例えた3つ目は流石に笑ってしまったが、基本的には酷い言われようだ。僕の部屋では総括は行われない。



更に、他の芸人の背後に映るキレイなマンションの壁やステキなインテリア。同じように芸人をやっていて何故こうも住環境が違うのだろうと涙を堪えながら悶々と配信をする日々。








ある日の配信中ふと気になったことがあった。





「下のおばあちゃんは配信の声がうるさくないのだろうか?」




配信をしている時の僕は自分の中のスイッチをオンにしているので、いつもより声を張りながら喋る。1階と2階は音が筒抜けのだ。確実に声は響いているはず。僕の声でおばあちゃんは大好きなテレビが聞こえなくなっていないだろうか?



…だがこの問題に関しては少し気になった程度で真っ直ぐ向かい合おうとはせず、大丈夫だろうと僕は呑気に構えていた。



しかしある日、緊張感を生む出来事が起こる。僕が玄関を開けると同じタイミングでおばあちゃんが玄関から出て来た。僕たちは挨拶を交わしたのだがその時おばあちゃんが着ていたTシャツがふと目に入った。




noisy
※(うるさい。騒々しい)

 


Tシャツの柄で「うるさい」と伝えてきた。僕は愕然とした。ファッションとはメッセージである。20代前半の時Ollieを毎月買っていた僕にはそれが分かる。おばあちゃんは内なる怒りをファッションに込めたのである。




その日の配信の僕は元気がなかった。ここは声を大きめにして強調する!と言う場面になるたびに「noisy」が脳裏をかすめ小声になってしまう。僕はもう配信をするのが怖くなってしまった。



おばあちゃんに一言謝らなくては。このままだと配信に支障が出る…!どうすれば…!TシャツにはTシャツで僕も「sorry」とプリントされたTシャツを着てアンサーを返すという案も思いついたが残念ながらメルカリで見つけることは出来なかった。




そして次の日、おばあちゃんに会う機会が訪れた。おばあちゃんは庭先に洗濯物を干していてその中には「noisy」のTシャツもあった。




抗議運動の横断幕に見えた。瞬時に僕の中で「noisy」は「配信を止めろ!私たちに静かな日々を返せ!」に訳された。おばあちゃんはやはり怒っている。これは謝らなくては…!


 

僕はおばあちゃんに近づいた。




「あの…僕、仕事柄ちょっとうるさくしてしまっていると思うんですが声が響いてますよね?すいません!」




真摯に謝った。怒られるか…??しかし意外な事におばあちゃんはにっこりと笑った。



「わたし、耳が悪いから大丈夫なのよ。全然聞こえないの。ふふふ。こちらこそテレビの音がうるさかったら御免なさいね。わたし耳が悪いからね。私も年だから耳が…」


この後、「耳が悪い」という言葉を5.6回は繰り返していた。おばあちゃんは大事なことは何度も言うようにしている人だ。そうしておばあちゃんは家の中に消えていった。




かくして、僕の心配は杞憂に終わったのだ。何だか色々考えていたが、結局肩透かしに終わった。おばあちゃんは耳が悪いと聞いて、少し心配になった。




おばあちゃんのテレビの音が聞こえてくるのもボロ家だからではなく、耳が悪いから音量をデカくしているからなのだろうか?その辺もまた解き明かしていきたい。

またこういう事態に陥ったときの為に「sorry」Tシャツは探しておこうと思う。















今日はここまでです。
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「noisy」の襟元がヨレヨレだったので、新しいのを買ってあげたいです。

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