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20年余の国際便輪行歴(の災難)を振り返る pt1

夏休みだ。飛行機で自転車を運んで海外サイクリング旅を画策する衆生も多いことだろう。
海外輪行を試みる者にとってしかし、
「輸送中に破損しないか」
「ロストバゲージに遭って生き別れにならないか

ということは最大の心配事であろう。

わたしは1996年に初めて飛行機に自転車を積んで旅行し、その後ほぼ毎年海外に愛車と共に行っていた(2019年以降はコ口ナ禍で中断しているので、正確には22年だな)。
その長年の経験から感じたことは、
日本以外の空港荷扱スタッフは、全員ろくでもない奴だと思え
・奴らは自転車だとわかれば、とりあえず壊してやろうと考えるような連中
・であるから、投げられる&落とされる前提で梱包しろ

ということだ。

いろいろひどい目にあってからはあってからは十数年以上経ってはいるが、今も海外空港荷扱スタッフの民度に変わりは無い。荷物ぶん投げとか逆落とし動画はネットでしばしば晒されているし(youtubeで「baggage handler throwing」とかで検索してみるがいい)、荷物を開けて金目の物を盗むなどというニュースもしばしば目にする。

上級クラスならば荷扱いが丁重になるかというと、そんなことは全くない。以下のトラブルはすべて、ビジネスクラスの客として体験したことである(台湾便を除く)。客は席とメシと酒は上等だが、荷扱と貨物室は平等。チェックインの際に「壊れても文句言いません」という文言にサインさせられるのはクラス問わず一緒だし、出てくる順番が先になるだけだ。
またフラジャイルタグを七夕か差押えかというぐらい貼ってもらはっても無駄である。
これまでの経験を振り返ってみよう。

初期〜フルサイズバイク+輪行袋

1996年、初めての輪行旅はアイルランドだった(写真)。
当時は情報も少なく、安全な梱包のやり方もよくわからなかった。そのため防御が全般的に甘すぎた。こんなもんで大丈夫じゃね、ぐらいの感じで済ませてしまったのだ。
加えて、キャセイパシフィックで乗り継ぎ2回、しかも香港景徳とロンドンヒースローという、世界ハードコア荷扱選手権の強豪として名高い2大空港を経由するルートという愚行を犯したのだった。
その結果、ダブリンのバゲージクレイムに出てきた我がクロスバイクは
・前輪リムがプリングルズポテチ状態
・なんかフロントフォークも歪んでいる。
・リアディレイラーなんかもちろん曲がっている
という悲惨な状態。明らかに投げたり落としたりしなければここまでならない。
輪行袋も明らかに引きずられた形跡があり随所が擦り切れていた。
そのままでは前輪がブレーキシューに接触して自走できない。そこで歩道の段差を利用してリムにガンガン蹴りを入れ、応急かつ力ずくで修正してなんとかダブリン市街まで自走した。
当初はその日のうちに列車で輪行して首都を脱出するつもりだったが、市街のバイクショップに一泊預けて修理を頼み、わたしも一泊することとなった。
教訓
・極力直行便で飛ぼう。乗り継ぎの数=ぶん投げ祭りの回数
・面倒がらないでちゃんと梱包しよう。

その後、翌97年はオランダ・ベルギーを旅した。
今度はちゃんと念入りに梱包したし、KLMのアムステルダムスキポール空港直行便なので抜かりはない。
無事旅を終え、チェックインカウンター前で分解梱包する。
しかしそこで、あろうことか輪行袋のチャックが壊れた。袋を閉じることができない。
途方に暮れるわたし、何グズグズやってんのよ早くしなさいよと冷たい視線のスタッフ。そこで傍で見ていたオランダ兄貴が「俺に任せろ」と助け舟。兄貴はカウンターからガム(布)テープを借り、自転車を梱包材と輪行袋ごとエジプトのミイラのように上からグルグル巻きにした。
「俺はこうやってアメリカに行ったことがある」と兄貴。
こうしてオランダ兄貴のおかげで無事帰国の途についたのだったが、成田でわたしを待っていた知らせは、
「お客様の荷物は手違いでコペンハーゲンに送られてしまいました」というものだった。
数日後宅配で自宅に送られてきた愛車と感動の再会を果たしたのだったが、これが帰りじゃなくて到着時だったらと思うとおそろしい気がする。
教訓
・万全を期し梱包してから余裕を持って空港に向かおう
・忘れた頃にロストバゲージを喰らう
・意外とイケる自転車ミイラ輪行

次の旅はフランスだった。
自転車は同じクロスバイクだが、3度目でもあったのでパッキングは万全、またキャンプ旅だったためテントや寝袋を持参したため、輪行の際にはそれらを緩衝材として利用でき、より万全を期すことができた。
その翌年から旅の機材はマウンテンバイクに代わった。構造的にクロスバイクの細いフレームより堅牢であるし、タイヤリム径も小さいので歪みのリスクは少ないのは輪行向きであると言えた。
翌年は同機材でフィンランド、その翌年はエストニアを旅行し、おおかた無事であった。

セミハードケース(でかい)登場

その翌年の旅は、冬のフランスであった。
5度目ともなると輪行に際しての梱包が億劫に感じていたわたしは、giantのセミハードシェルを購入した。この種のフルサイズバイク用のものは今はあまり生産されていないようだが、探してみたらこのような製品がある。

現行のこれはずいぶんお高くて6ケタのお値段だが、Giantのそれは当時定価が5万ぐらいだった。
セミハードとはいえ樹脂板の芯が入っており、壊せるもんなら壊してみろと言わんばかりの構造だ。輪行袋とは安心度が桁違いで大いに信頼できそうだ。加えてかなり気楽かつ比較的ズボラな梱包で預けることができ、荷造りも大いにラクになった。
上に挙げたものは2輪だが、床面にキャスターが4つついており、押し引きして移動できる造りだ。随所でくっそ重い自転車を担がなくていいのは大きな極楽化であった。現地で到着日と帰国前夜に予約したホテルに預けておいて旅に出かけた。

しかしあまりにラクであったために緊張感を欠く結果となり、帰国の際に問題を生じることとなった。
国際線は2時間前までにチェックインを済ませるのが正しい旅人とされるが、緊張感を欠いたわたしはホテルの部屋でのんびりし過ぎ、カウンターについた時には出発1時間前を切っていた。
「すいません遅くなってしまって」とちょっとドキドキしながらも割と余裕の気分のわたし。
「いえいえぜんぜん大丈夫ですわよ、チケットとパスポートを。」と優しい笑顔で迎えるスタッフのお姉さん。
しかしわたしの背後に置いたバカでかい自転車ケースを目にした瞬間、お姉さんの笑顔が凍りついた。
「もしかして…それはチェックインラゲッジですか…?」と急に顔がマジになるお姉さん。急にどうしたんだベイビー、なんかよくない予感がする。君にそんな表情は似合わないぜ、スマイルフォーミーベイベー。
「オーバーサイズラゲッジはもう間に合わないかも知れません。」と衝撃的な一言。「でもなんとかしてみます。」とお姉さんは方々に電話をかけまくって交渉してくれた。
結果はやはりダメだった。わたしは帰国便に乗り遅れた男として旅人界に名を残すことになるのだろうか。
しかし神は我を見捨てなかった、もしくはお姉さんが神だった。その日の午後にスケジュールされている同キャリアの便に振り替えられるようにお姉さんがふたたび方々に電話で交渉してくれたのだった。
その結果、かろうじて午後の便で帰国できることとなったのだった。安いチケットだったがそのような変更が効くものであったのは幸いであった。お姉さんありがとう。すごく優しくてもうお礼にぜひお食事をご一緒した上で結婚を前提に交際してほしいと思った。

かくしてこの時は無事帰国できたのでお姉さんとの交際は果たせなかったが、その後わたしの海外サイクリングに大きな転機が訪れる。折りたたみ自転車の導入である。


2に続く

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